なぜか、同期のモテ男に好かれてしまったのですが…

325号室の住人

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  4 島津視点

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斉藤スカイは俺の同期の1人である。

ただし、職務経験年数が3年を超えると転職や寿退社組がどんどん抜けて、今となっては社内唯一の俺の同期である。

新入社員当時、研修で同じグループになった斉藤空─いや、ここは敢えてと呼びたい─は、空気のような娘だった。

眼鏡を掛けていても、頭の後ろの低い位置で1つにくくった髪も化粧っ気のない肌も状態が良いのがわかるし、真面目で清潔感があって、とても好感が持てた。

同じグループになったのは他に男が1人女が2人いたのだが常に雑談をしており、スカイは俺の出した意見や彼らのお喋りの中からそれらしい言葉を抽出してしっかりとまとめてプレゼン資料を作成していた。
まぁ最終的に発表や資料作りの手柄は彼ら3人に奪われたのだが腐らず、常にサポートに徹していたのは…俺なら態度や顔に出てしまうのに全く出て来ないのですごいと思った。

その後、その時のプレゼンの出来栄えで、俺は営業部に、もう1人の男は企画部に、女の1人は受付、もう1人は秘書課に抜擢され、1番の功労者であるスカイは総務部に配属されることとなった。

あれから6年…
スカイは正当な評価を未だ受けることなく総務部の平社員をしており、俺は営業部で主任になった。



そういえば、あのプレゼンの後に5人だけで打ち上げをした。

女達は纏わりついてきてうっとおしく、男はスカイを《チョロい奴》と見積もって、酔わせて騙して《お持ち帰り》しようとしていたのだが、スカイはアルコールに手を付けず、飲み物やお茶やおしぼりを注文するなど裏方に徹していた。

そのうち、男が酔わせることに飽きて俺に纏わりついていた女共と抜け、俺とスカイは2人きりになった。

俺はそこで、
「プレゼン資料の件ももろもろ、1番の功労者は斉藤さんだね。」
と告げた。

スカイはあまり誉められたことがないのか一瞬耳まで真っ赤になっていたが、視線を落とすとすぐにトイレに立ってしまった。
どうやらそのまま会計を済ませたらしく、5人でワリカンにした金額を5人で作ったグループにUPしたのだが『先に帰ったのだから安くしろ』と言われて最終的に言い値で集金していた。

本当にスカイは慎ましい性格をしていると思った。



以来、俺は部署で身に付けた営業スマイルで本来の自分を仮面で隠しながら、スカイを視界に入れつつ6年を過ごした。

出張に行けば土産を部署に届け、残業しているようなら駅まで帰り道を見守ったり…というのは流石にストーカーっぽいか。

いつだか総務部の前を通り掛かった時だった。

「スカ先輩は、好みのタイプなんて居ないんですか?」
後輩の問いに、
「…………………………しいて言えば、王子…」
と答えているのを聞いて、自分のキャラを清く正しく美しくしてみたのだが…

他の女が寄って来る分、スカイと話すらできなくなってしまった。

しかも!
同じ部署の女に俺の話を振られて、
「島津は確かに同期ですけど、既婚じゃないですか。ありえません!」
「アタシは不倫でもいいから遊んで欲しいけどね。」
「私は絶対にです!」
と。

俺は、自分の左手薬指に嵌まった父の遺品に目を落とす。

父の遺品整理をしていた時に姉がふざけて嵌めて、以降抜けなくなった母との結婚指輪…
母が亡くなったのは俺と姉がまだガキだった頃で、父は以来約10年の間もその指輪を身に付けて母を大事に想っていた。

「そんな相手に会えるようにあやかって♪」

ニヒニヒ笑っていた姉の顔がよぎるが、まさかコレの所為で俺の幸せが逃げていたなんて……

速攻でトイレで手を洗いまくって無理矢理外したのは言うまでもない。


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