【本編完】しがない男爵令嬢だった私が、ひょんなことから辺境最強の騎士と最強の剣の精霊から求愛されている件について A-side

325号室の住人

文字の大きさ
上 下
39 / 49
本編

  39

しおりを挟む

陽の出を迎えた砦の上では、夜通し戦った満身創痍の男達が雑魚寝している。

そんな中で、大鍋に炊き出しのいい匂いが町の方から上がって来る。

比較的体力の残っていたライドとシュカ、気付けばいつの間にか人化していたマーロンが、町へ降りた。

「あ、副団長さんだ! おーい!」

町の方から小さな男の子が手を振る。

「砦を、町を守ってくれたんだって? ありがとね、みんな。」
「これは騎士団員の分だからね。どんどん食べとくれよ!」

「ありがとう、皆さん。戴きます。」

気付けば全裸で人化していたマーロンは、砦内の自室で辺境騎士団の制服に着替えている。
一晩中戦い切ったリッカとライドと比べ服が小綺麗に感じるのはそのせいである。

3人を代表してマーロンが答えると、リッカとライドも温かな豚汁を受け取った。

すいとん入りで腹にも溜まり、温かい汁で体が温まる。

3人が1杯目を終える頃、砦内からは次々と足ガクガク腕プルプルの騎士達が合流して炊き出しの豚汁を食べた。

体が温まってくるとどこからか音楽が鳴り始め、それに指笛が加われば踊り始める者も現れ、酔っている者はいない筈なのに皆で陽気に歌い踊る輪ができた。

「お兄ちゃんも踊ろうよ!」

小さな女の子がライドの前にやって来た時だった。

ライドの足元へライドがすっぽり収まる程度の円が出現し、足元からの白い光に包まれた。

『ライド、今度はあっちがピンチやぞ。マーロン、リッカよ、ここはおまえらに頼むやさかい、ライドとわいは詰所へ戻るで。』
「心得た。」
「ライド、いってらっしゃ~い。」

「え? もう? 俺は体がガタガタなのだが? ギャー…」

ライドは己の得物である最強の剣と共に、円に吸われるように姿を消した。






「んぎゃ!」
『味方は商隊。辺境騎士団の制服のモンが敵や!』
「わかった!」

転移した先では、大人数が斬り合い…いや、峰打ちによる打ち合い?叩き合い?が繰り広げられていた。

コチンッ
グエッ
バサッ

ゴチンッ
へあっ
バサッ

峰打ちされて一声上げるとその場に倒れる。
が、倒れた者はその場から動かないのに、いくら昏倒させても後から後からやって来る。

そのうち、足の踏み場がなくなるほど人が倒れているようになってきて、ライドは草履を袴の腰紐に突っ込み、裸足で移動しながら相手と戦った。

陽が南中南中まで昇り切った頃、ようやく騎士団の制服の人間の最後の1人が、グエッと倒れた。
その時、断崖絶壁のある方から、何とも芳しい匂いが漂ってきた。

「タコパだぁ!」

誰かが叫ぶ。

すると、それまで昏倒していた者たちの半分も起き出し、次々断崖絶壁から海へダイブして行った。

「は? みんな何を?」

『何ゆうてんねん! タコパに参加するんやろが。わいらも行くで!!』

鞘に収めた筈の剣精に腕を引かれ、出遅れて最後になってしまったライドもとうとう、断崖絶壁から跳び下りた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花
恋愛
 公爵令嬢のカミラ・リンディ・ベネット。  彼女は階段から降ってきた誰かとぶつかってしまう。  その『誰か』とはマーセルという少女だ。  マーセルはカミラの婚約者である第一王子のマティスと、とても仲の良い男爵家の令嬢。  いつに間にか二人は入れ替わっていた!  空いている教室で互いのことを確認し合うことに。 「貴女、マーセルね?」 「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを⁉︎」  婚約者の恋人と入れ替わった公爵令嬢、カミラの決断とは……?  そしてなぜ二人が入れ替わったのか?  公爵家の令嬢として生きていたカミラと、男爵家の令嬢として生きていたマーセルの物語。 ※いじめ描写有り

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...