【本編完】しがない男爵令嬢だった私が、ひょんなことから辺境最強の騎士と最強の剣の精霊から求愛されている件について A-side

325号室の住人

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本編

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翌朝のこと。

私は何故か夫人に叩き起こされ、辺境騎士団の詰所へ向かう騎士達と同行せよとのめいを受けた。

大所帯での移動となれば、この領、または辺境伯本人に何事かのイレギュラーが発生したと他に知られてしまうと危惧した辺境伯騎士団の寮付の副団長が判断したため、何グループかに分かれて辺境伯騎士団の詰所へ移動することに決めたのだ。

先ずは捜索に参加する全体の半分が、商隊に姿を変えて馬に荷物を載せて徒歩と僅かな幌馬車で移動、残り半分のうちそのまた半分が山賊となって商隊を襲い、残りの者が騎士団員として山賊を追うのだそう。

私は商隊の人間として参加し、山賊へ人質として連れ去られる役回りとのことだった。
華やかなドレスを身に纏って1番歳上である副団長様とその側近の方と一緒に中央の馬車に乗り込むことになり、やがて馬車は出発した。

ちなみに、シュカも副団長様の病気の娘役として参加している。
商隊は商会長の娘の原因不明の病を治すべく、聖地巡礼の旅をしている設定だとか。

私? 私はもちろん商会長の愛人役。

「アハハハ…ぴったりな役で良かったわねぇ…せいぜい可愛がってもらって、市井に下りてからもご贔屓にしてもらいなさいよ!」
とは、夫人から頂戴した餞別の言葉だ。

道中、副団長にはその言葉通りとても可愛がってもらっている。

副団長は、左眼の眼帯がどこか海賊を思わせる、白髪で細身のお爺さんだ。

前世の記憶を持っていて、前世の職は和菓子職人。
職人時代に使っていた《へら》は全て手作りだったため、辺境伯騎士団に入る前はとある王国の間者らが使う道具を作る部署に所属していたのだが、その国の滅亡と共にこの辺境伯領へ流れ着いたのだと言う。

「おみゃぁさんは、《あんこ》は漉餡派かの? 粒餡派か?」
「粒餡派です。あ、でも夏の水羊羹はつるりと漉餡派ですかね。冬の水羊羹は粒が入ってるのが好きですけど。」
「ほうかほうか。なら、そろそろ小腹が空いた時間じゃろう? ワシの炊いた《あんこ》食べるか?」
「はい。戴きます!!」

今でも、集中したい時には《あんこ》を炊くという副団長は、こういった遠征の際には必ず《あんこ》を持参しては、周りに振る舞ってくれる。

この《あんこ》を貰えなかった者は、辺境伯騎士団員には向いていない者として転職する者が多いという。

《享楽のフレリア》でもライドルートの時にそういったエピソードが出てくるのだが…その時のフレリアは《あんこ》を貰えず、ライドには相応しくないと判断されるという流れだ。

《あんこ》を食べていたら、副団長の側近の方に話し掛けられた。

「おるがにも、ちっとくれんか?」
「おみゃぁはまた! こっすいのう。正面切って、ワシに言わんかい!」
「でもぉ…」

副団長の側近の方はお孫さんだそう。
未だに副団長の《あんこ》は貰えてないらしい。

「おるがだって頑張っとる! なのにじっちゃはいつまでたってもおるがには…」
「なら、次に炊く時にワシのところへ来い! いいな?」
「はい!」

そうして私達は、道中楽しく過ごしたのだった。


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