【本編完】しがない男爵令嬢だった私が、ひょんなことから辺境最強の騎士と最強の剣の精霊から求愛されている件について A-side

325号室の住人

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本編

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「フレリア、こっちよ。早く!」
「はい。」

夫人とご息女様その2が退室して靴音も聞こえなくなった頃、私は今日一緒に回っているシュカに連れられて使用人用の詰所へ戻ってきた。

「さぁ、座って。両手を見せなさい。」

おずおずと両手の甲をシュカに見せると睨まれ、やっぱリダメか…と手のひらをシュカに向ける。

小指同士をくっつけた時の外周にあたる部分が全て、特に手首側が酷い擦り傷になっていて、自分でもしっかり視界に入れてしまえばとても痛そう…

「グウっ…」

そこへシュカが先の細い竹の箸で、扇の繊維を取り除いて行く。

「はぁっ…」

正直、一瞬だった扇で打たれた時よりも、今の方が痛い。

「これで最後みたいね。」

目を皿のようにして私の手のひらへ視線を注いだシュカは、そう言うと最後に私の手首を掴んで立ち上がり、入ってきたのとは反対側の扉へと向かった。

「ちょっ…どこへ?」

言えば、パッと手を離される。
ここは、井戸だった。

丁度そこへ若い男性が通り掛かり、シュカと何やら話すと、その男性が水を汲み上げ、

バシャアッ!!

私の両手に勢いよく掛けた。

「んんんんんうううぅっ!!!」

ものすごく滲みた。

「こんなに滲みるんだもの。よく声を出さずに耐えたわね。」
「うぅ…………はい。」
「あの奥様も辺境騎士の家系で育って、子どもの頃は毎日鍛錬を欠かさなかったそうよ。
ただし、他の兄弟全て男だったから、姫のように育てられたんですって。」
「そうなのですね。」

奥様の話を聞いているうちに、シュカによって薬が塗られ、手早く手当てしてもらった私の両手は、あっという間に包帯でぐるぐる巻きになった。

「今日は、フレリアは見学よ。あたしの仕事を見て覚えてね。」
「わかりました。シュカ、ありがとうございます。」

「じゃあな、シュカ。」
「えぇ。ハンス、また。」

若い男性はシュカに手を振ると、騎士寮の方へ走り去った。
彼の背を見ていると、後ろから声がした。

「幼馴染なの。まだ騎士になったばっかりのヒヨッコだけどね。」
「ふーん? シュカの良い人?」

途端に真っ赤になって目を泳がせるシュカ。

「良いわね。来年…再来年かしら? 婚姻は。」
「んー……まだ、わからないんだから! ほら、仕事に戻りましょ。」

その後は、シュカに辺境伯邸の案内や仕事の説明をしてもらいながら、夜を迎えた。


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