【本編完】しがない男爵令嬢だった私が、ひょんなことから辺境最強の騎士と最強の剣の精霊から求愛されている件について A-side

325号室の住人

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本編

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「先ずはこちらです。」

ライド様の歩幅に合わせるように、街を大股で闊歩する。

最初は、窓枠が白い、メルヒェンチックなリボンや髪飾りを扱った、可愛らしいお店だった。

たぶん前世の日本人だったらこの店の何を見ても感想は《カワイイ!》だっただろうな…という商品を多く取り扱った店だ。

ライド様は、第2王子殿下に比べれば体が大きいながら、お父上の騎士団長と並べば華奢に見える体躯をしていらっしゃる。

とは言え、女子の集まるこの店では完全に場違いで、何なら入口扉も潜って入店するようなありさまなれど、私に付き合って、アレでもないコレでもないと侍女見習いの仕事中でも身に着けられそうな髪留めを選んで下さった。

5つで花を模ったおもちゃのような小さなガラス玉はライド様の瞳の蒼で、プレゼントではあっても包装してもらわず、すぐに私の髪に挿してはニコニコと上機嫌で、本当に可愛らしい方だなぁと思った。

その後は服屋で既製品のワンピースを2枚購入し、こちらは包んでもらうとライド様が受け取って荷物持ちをしてくださった。

それから、休憩としてパーラーへ入った。

前世で言う昭和レトロな喫茶店を思わせる店のショーウィンドウにはレースのカーテンのような飾りの下に、宙に浮いたフォークが1口分のナポリタンを持ち上げていた。

ライド様は自分にホットコーヒーと、ナポリタンと小さなグラタンのセットを。私にはプリンアラモードと温かい紅茶を注文してくださって、久々のエモさを充填した。

注文した品が届くまでにお話したところ、ここまでの3軒はお母上様との思い出の店なのだと言う。

「だからと言って、決してマザコンという訳では…」

言いながらフォークでクルクルナポリタンを纏める指先の動きはとても自然で、

「もしかして、ライド様にも前世の記憶が?」

こちらも自然に口からそんな言葉が出てしまった。

ライド様はハッと動きを止め、

「そのことは、後で釈明させてください!」
と。

《釈明》という言葉から、ライド様もまたあのR18ゲーム『享楽のフレリア』の存在を知っていたのだろうと推測できる。

私は裏切られたような気持ちで少し悲しくなって俯きながら、最後に残ったふやけたサクランボを口に入れた。

シラップ漬け特有の甘ったるさが暫く喉に貼り付いたのを理由に、私は無言でライド様の次の行動を待つことにした。


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