【本編完】しがない男爵令嬢だった私が、ひょんなことから辺境最強の騎士と最強の剣の精霊から求愛されている件について A-side

325号室の住人

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私の涙に驚いたように、彼は私から飛び退く気配がした。
ただ私の涙腺は決壊しており、俯いたままだ。

「もももも申し訳ない。弟とは双子だ。顔も似ているだろう? 辛いことを思い出させてしまったね。」

どの王子も、自分の名前は名乗らない流儀のようだ。
まぁ、私も名乗ってはいないのだけど。
他称王子の声は、だんだん私から離れて行く。

「君。顔を見せてくれないか。」

ベッドの反対側から黒髪の青年の声がして両手を外せば、目の前には少し俯きがちに赤面した金髪碧眼のご尊顔。

「申し訳ない。まさか僕までこんな…どうか責任を取らせて欲しい。
それから、ダメにしてしまった君の制服は、王家で弁償しようかと考えていたのだが、学園側の話し合いで、君は今日この時をもって退学となってしまった。
代わりに王宮で家庭教師をつけ、君の心身、特に精神面の療養をしっかりと行なってもらうこととなった。
弟は王子の身分や王位継承権を剥奪し、罪人として既に国境近くの監獄へ送ったので安心してほしい。
さぁ、王宮へ向かおう。」
「わたくしが運びます。」

こうして、学園に足を踏み入れただけで退学処分となってしまった私、フレリア・ブリネスカは、男性に横抱きにされて王宮へ向かうことになった。






「君には、この部屋を使って欲しい。」

金髪碧眼の男性は言う。

「念の為、ライをこの部屋の前に置いておくよ。
用事があれば、ライに言うと良い。
少し母に相談して侍女を借りてくるから、どうか寛いでくれ。」

そうして私はただただ豪華でだだっ広い部屋にぽつんと残された。

とりあえず設置されている猫足のソファに、足へ多く体重を掛けながら遠慮がちに尻を乗せた。

父のでこの世に生を受け、下町で暮らしていたものの、年齢が2桁になる頃に母が亡くなってからは父に引き取られた。
この春からは義兄が嫁を取って男爵を継いだので、学園の寮に入る気満々だった私。

実家には令嬢らしい私室はないものの、お話に出てくる家のように使用人として過ごさせられるということはなく、一応は男爵令嬢としての一般常識や最低限のマナーは身に付けさせてもらった。

ただ、義母からはよく《そんなに大きな体に耐えられる椅子は我が家にはありません。》とか言われて、立って過ごすことが多かった。

他には《嫁の貰い手がなくなるわ。》と、義兄とはあまり接点はないくらい。

娼館に売られる予定も、成金の後妻に入る予定も特になく、一般的な下位貴族の子どもの支度をしてもらい、この学園に入学してきたのだった。


「はぁ…」

フレリアはいよいよ足がしびれてしまい、ドンッとソファに腰掛けると、椅子に破損がないかと何度か音を確認しながら座り直すと、溜め息を吐いた。

まさか、自分にこんなことが起こるなんて…

他称豚王子、いや、見た目豚の元他称王子だったか。

──この世界がR18ゲームの世界って言ってた。

実は、私にも前世の記憶がある。

自分が男爵令嬢として引き取られた時点で、もしかしたら乙女ゲームか何かの世界かしらって少しは頭をよぎったけれど、あいにく自分の知ってるゲームや小説にフレリア・ブリネスカという名前は出てこなかったので、全然関係ないと思っていたのだ。

でも今日、元他称王子からR18ゲームの話を聞いて、まさかそっち方面だったとはと、心の中で頭を抱えた。

言われてみれば、元他称王子の話していた『いざ開かん! 快楽の扉!!』というセリフに聞き覚えがあった。

テレビやネットのコマーシャルだろうと思うけど……

「はぁ……まさか自分の名前を冠したタイトルのR18ゲームがあったなんて……」

トホホ……

フレリアはソファの肘掛けに頭をのせ、

「はぁ~~…」

特大の溜め息を吐くと、現実逃避したくて瞼を下ろした。


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