3 / 49
本編
3
しおりを挟む私の涙に驚いたように、彼は私から飛び退く気配がした。
ただ私の涙腺は決壊しており、俯いたままだ。
「もももも申し訳ない。弟とは双子だ。顔も似ているだろう? 辛いことを思い出させてしまったね。」
どの王子も、自分の名前は名乗らない流儀のようだ。
まぁ、私も名乗ってはいないのだけど。
他称王子の声は、だんだん私から離れて行く。
「君。顔を見せてくれないか。」
ベッドの反対側から黒髪の青年の声がして両手を外せば、目の前には少し俯きがちに赤面した金髪碧眼のご尊顔。
「申し訳ない。まさか僕までこんな…どうか責任を取らせて欲しい。
それから、ダメにしてしまった君の制服は、王家で弁償しようかと考えていたのだが、学園側の話し合いで、君は今日この時をもって退学となってしまった。
代わりに王宮で家庭教師をつけ、君の心身、特に精神面の療養をしっかりと行なってもらうこととなった。
弟は王子の身分や王位継承権を剥奪し、罪人として既に国境近くの監獄へ送ったので安心してほしい。
さぁ、王宮へ向かおう。」
「わたくしが運びます。」
こうして、学園に足を踏み入れただけで退学処分となってしまった私、フレリア・ブリネスカは、男性に横抱きにされて王宮へ向かうことになった。
「君には、この部屋を使って欲しい。」
金髪碧眼の男性は言う。
「念の為、ライをこの部屋の前に置いておくよ。
用事があれば、ライに言うと良い。
少し母に相談して侍女を借りてくるから、どうか寛いでくれ。」
そうして私はただただ豪華でだだっ広い部屋にぽつんと残された。
とりあえず設置されている猫足のソファに、足へ多く体重を掛けながら遠慮がちに尻を乗せた。
父のおイタでこの世に生を受け、下町で暮らしていたものの、年齢が2桁になる頃に母が亡くなってからは父に引き取られた。
この春からは義兄が嫁を取って男爵を継いだので、学園の寮に入る気満々だった私。
実家には令嬢らしい私室はないものの、お話に出てくる家のように使用人として過ごさせられるということはなく、一応は男爵令嬢としての一般常識や最低限のマナーは身に付けさせてもらった。
ただ、義母からはよく《そんなに大きな体に耐えられる椅子は我が家にはありません。》とか言われて、立って過ごすことが多かった。
他には《嫁の貰い手がなくなるわ。》と、義兄とはあまり接点はないくらい。
娼館に売られる予定も、成金の後妻に入る予定も特になく、一般的な下位貴族の子どもの支度をしてもらい、この学園に入学してきたのだった。
「はぁ…」
フレリアはいよいよ足がしびれてしまい、ドンッとソファに腰掛けると、椅子に破損がないかと何度か音を確認しながら座り直すと、溜め息を吐いた。
まさか、自分にこんなことが起こるなんて…
他称豚王子、いや、見た目豚の元他称王子だったか。
──この世界がR18ゲームの世界って言ってた。
実は、私にも前世の記憶がある。
自分が男爵令嬢として引き取られた時点で、もしかしたら乙女ゲームか何かの世界かしらって少しは頭を過ったけれど、あいにく自分の知ってるゲームや小説にフレリア・ブリネスカという名前は出てこなかったので、全然関係ないと思っていたのだ。
でも今日、元他称王子からR18ゲームの話を聞いて、まさかそっち方面だったとはと、心の中で頭を抱えた。
言われてみれば、元他称王子の話していた『いざ開かん! 快楽の扉!!』というセリフに聞き覚えがあった。
テレビやネットのコマーシャルだろうと思うけど……
「はぁ……まさか自分の名前を冠したタイトルのR18ゲームがあったなんて……」
トホホ……
フレリアはソファの肘掛けに頭をのせ、
「はぁ~~…」
特大の溜め息を吐くと、現実逃避したくて瞼を下ろした。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
秋月一花
恋愛
公爵令嬢のカミラ・リンディ・ベネット。
彼女は階段から降ってきた誰かとぶつかってしまう。
その『誰か』とはマーセルという少女だ。
マーセルはカミラの婚約者である第一王子のマティスと、とても仲の良い男爵家の令嬢。
いつに間にか二人は入れ替わっていた!
空いている教室で互いのことを確認し合うことに。
「貴女、マーセルね?」
「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを⁉︎」
婚約者の恋人と入れ替わった公爵令嬢、カミラの決断とは……?
そしてなぜ二人が入れ替わったのか?
公爵家の令嬢として生きていたカミラと、男爵家の令嬢として生きていたマーセルの物語。
※いじめ描写有り
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる