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欲しい
しおりを挟む学者棟では、まずは国史から始まり、精霊のこと、歴代国王と歴代国王の精霊についての逸話などを学びながら、この国の標準語の物の言い方、記し方を学んだ。
それから政治と、前世でいう憲法みたいなものと各領地にある法律についてを学び、並行して算術も学んだ。
その後は、各領地を治める人の手腕や人物について学んでから地域の地理やちょっとした領史を学び、その領地の人間から、特産品やどこと交易を行なっているかなどの話をしてもらった。
その領地の人間は、大体がその領地の領主の娘で、あまり要領を得なかった。
そういう時には自分でその地へ転移して、実地で視察をしていた。
父王は、
・王子とはバレないようにすること
・危険には近付かないこと
・レポートを提出すること
を条件に、僕の行動を許してくれた。
そこで分かったことは、『領主の娘を寄越す領地の領主はたいがいクズ』ということ。
身に合わない野心を持ったり、自分の娘を道具としてしか見ていない、税を領地へ還元しない、使用人への支払額が少なかったり…
そういった人間を見る度に、僕は彼女を思い出し、彼女が欲しい、また会いたいと、彼女を求めた。
けれど、僕が何度彼女の屋敷を訪ねても、彼女の気配を感じることはできなかった。
僕が学者棟での学びを始めて1年経った頃だった。
僕はとうとう、彼女の父親らしき人物の気配を城内に見つけた。
ずっと魔法で気配を探っていたら、その人物は10時─16時で城に居ることがわかった。
そこで翌日、僕は昼の休憩にその人物の執務室と城内の職員用の食堂との間にある廊下まで転移した。
昼休憩を告げる鐘が、リンゴーンと鳴り始めると、彼女の父親の執務室の扉が開き、中から中年の男を先頭に男性が5人出てきた。
彼女の父親の顔は、かなり前になるがしっかり記憶している。
以前見た時より体格としては少し痩せたように感じるけれど、彼女と同じあの色合いは間違いようがない。
僕は咄嗟に一般侍従の服装に着替え、廊下の端で5人の男性が通り過ぎるまで頭を垂れた。
そして集団が行ってしまってから、僕と同じように頭を垂れていた一般侍従に声を掛けた。
「あの、スミマセン。今通り過ぎた一番前の方のお名前って……?」
「あぁ、スカーリー侯爵ですよ。」
「ありがとうございます。」
とうとう彼女の家名を知ることができた。
そして、彼女に会えないまま迎えた僕の誕生日のこと……
あ、年齢が2ケタなのに《父様》は恥ずかしく、こっそり《父上》呼びになりました。
僕は、国王である父上に願った。
「スカーリー侯爵家の娘と婚約したいのです!」
と。
「そうかカイルよ。相分かった。しかし、王子の婚約というものは、わしが最初から1人に絞って結ぶことはできなんだ。
さすれば、《王からの命令》になってしまうからのう。
《王家の花嫁選び》に準じた進め方をすることになるが、構わないだろうか。」
「はい! 宜しくお願い致します。」
僕は父上に申し出が通ったことに浮かれすぎて、もろもろの確認を怠った。
例えば、侯爵家に娘は何人いるのか? 娘の色合いは? 年は? 名前は? 《王家の花嫁選び》とは?
けれど、今思えば『良かった』と言える。
僕の態度を見て、自分の若い頃を振り返った父王が何かを感じ取って、《王家の花嫁選び》という提案をしてくれたことに、感謝するしかない。
もし、ソレがなかったら僕は……
きっと今頃、大きな後悔に押し潰されていただろう。
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