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   僕の誕生日 2

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「「ひょええぇぇぇぇーーーー!!!」」


突然のおっさんの叫び声に、僕と父王も変な悲鳴を上げて答えてしまった。

そして改めて周りをよく見れば…
そこはトイレの個室の前だった。

「失敬した!」
そう叫ぶ父王に腕を引かれ、無理矢理その部屋から連れ出される。

汲取式のトイレの悪臭に顔を顰めつつ、扉を潜るその瞬間に、臭いの発生源に生ごみを肥料に変えるバクテリアを投入…
したところで、父王により僕の体は廊下を挟んだ反対側の壁に打ち付けられた。

「お前は! 何をしているんだ、カイル!!」
「?」

僕は父王のセリフに首を傾げる。
どこのことを言っているのかわからなかったからだ。

「その顔は何だ!言え!カイル!!」

父王は僕の胸ぐらを掴んで揺らす。
背中が何度も壁に当たって痛い。

──こんなんじゃ、健康体だって痛いだろう?

「わかりました。とりあえず説明します。」

僕は両手を挙げて父王に言った。
父王は、やっと僕に反応があったので、手を離してくれた。


「ケホケホ…あ、今のは不健康だからではないですよ?」

ちょっと前置きをして服装を整えると話し始めた。

「僕には精霊が付かない代わりに、神様のお力で魔法が使えるんです。
そこで、国王陛下と一緒に、陳情の上がっていた子爵家へ時空を越えて移動してきました。
で、陛下の印は陛下の執務机の引き出しへ移動しました。
僕はあの書類に残った気配を頼りに移動したので、ここが不浄の部屋だとは思いませんでした。
申し訳ありませんでした。
以上です。」

父王は、僕の顔を見たり右上を睨んだり自分の右手をまじまじと見つめたりしながら、考えをまとめているようだ。

「あぁ、まぁ何にしても、カイルの所為だということはわかった。」

父王は言った。
それなら今度は僕の疑問を解消してもらおう。

「ところで国王陛下、先程から仰っている《カイル》というのは…?」
「お前の名前だが?」
「僕の? そう言えばそうでしたね。」

僕の返答に、父王は文句がありそうな、宇宙人に会ったような表情をしている。

「あぁ、生まれて初めて呼ばれたもので、反応が鈍くて申し訳ありません。」

真面目な顔つきで答えれば、

「なんだと?」
と。

「《婆や》は僕を《殿下》と呼ぶもので、《カイル》と呼ばれたのは初めてだったのです。」

真面目に言えば…

グエッ
父王に抱き締められた。
……ってか、絞め殺されそうな勢いだ。

「すまなかった、カイル!!」

何か父王、男泣きしてるんだけど?

「国王陛下、どうされましたか?」
「それもだ。わしはさみしい。なぜ《国王陛下》など、他人行儀な!! 兄や弟のように、《父様》と呼べ!」
「あぁ、僕には兄と弟が居るのですね!」
「父もおる! 母もおるぞ!!」
「おぉ、皆様ご健在でしたか!」
「そこからか!」
「?」
「お前の病は?」
「病ではありません。
魔法や魔力のないこの国で、少し体に馴染むのに時間がかかっていただけにございます。」
「病ではない? ならば今この時より、カイルを他の王子と同様に扱おう。
すまなかった。上がってくる報告だけを鵜呑みにしていた。きちんとこの目で確認しておけば良かった!!」


んん! ぅおっほん、エッホン……!

そこへ、かなりわざとらしい咳払いが聞こえた。

そちらを見ると、先程の叫び声のおっさんだった。

「あの……どこのどなたかは存じ上げませんが、私に何か御用でしょうか?」

僕と父様は、それまでの大騒ぎから一転、動きと声を、瞬きさえ止めた。


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