【完結】秘密

325号室の住人

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うまいこと屋敷の天井裏に侵入を果たし、殿下を探し歩いていた時だった。

真下の部屋から大きな声が聞こえた。






「ひゃめろ~~~!」

アンリの顔に王子の息が掛かるほど近付いてきたところで、王子は強硬手段に出た。

どういう訳か、左手が自分の髪を鷲掴みにして引っ張っていた。

「いいいいいだいぃぃぃ~~~!!!
だから言っているだろう! 僕は婚約者のラピスが好きなのだ。愛しているのだ。だから、こちらの令嬢に不埒な真似はやめるんだ!!
痛いから離せ~~~!!
煩い。お前が僕の体を諦めて別の体へ移ればいいじゃないか! この亡霊が!!
だからいひゃいーー! あめろヤメローーー!!」

今度は王子の右手の薬指が自分の口へ突っ込まれ、右へ引っ張る。

「あだー! 俺は推しのあんいたんアンリたんと、ちすキスするんー!!」

髪は左へ、口は右へ引かれているのに、頭からアンリの方へ突っ込もうとする。

あべおヤメローー!」






ポーライルは自分が見たことが信じられなかった。

第2王子殿下はこの国に入った途端に今のような二重人格者の混乱のような状態になってしまったから、半日以上この状態に付き合っているため見慣れたものだ。

しかし、現在殿下はソファに掛ける令嬢の膝に乗るような状態でおかしくなってしまっている。

ならば令嬢を早く助けなければならない。

ポーライルは天井から床へ跳び下りた。






丁度その時、アンリの堪忍袋の緒が切れてしまった。

アンリは右足に力を込めると、その足を天井に向かって蹴り上げた。

「フゲブハッ」

瞬間、王子は変な声を出した。
ローテーブルは昨日のうちに母子で破壊していたため、王子はきれいに弧を描きながら壁に背中を打ち付けた後、気を失った。






床に着地した瞬間、飛んできた殿下が壁に打ち付けられて気を失った。
念の為近付き脈を取るが、ただ気を失っているだけのようだった。

確認を終えて立ち上がると、後ろから声が掛かった。

「誰だ!」

振り返れば、どこからどう見ても立派な美しく着飾った御令嬢が、短剣を逆手に構えてこちらを睨んでいる。

ポーライルは咄嗟に、掌が相手に見えるように両手を頭より高く上げた。

「誰だと聞いている!」

再び声が掛かる。
女性にしては低めの声だが、侵入者に対して怯えるでもないようで声は震えていなかった。

「私は、こちらのラティアス殿下の影をしている者! けして怪し……」
「突如天井裏から侵入してきて、怪しくないとなど思えるか!」
「……それもそうだな。しかし、別に怪しいものでは……」

ポーライルは、困ったなと左手で頭を掻いた。

その時、左手の小指で赤い石がキラリと存在を示した。


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