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しおりを挟む出てきた料理を完食し、少しだけお茶を飲みながら談笑する。
アンリの《空腹》をポーラが《腹痛》と聞き間違えたことについて、2人でよく笑った。
「ところで……
あの森の、この国の先には3つの国があるけれど、ポーラの行き先はどの国なの?」
「あぁ、はい。セイド国です。」
「そうか。セイド国の医療技術はとても進化していると聞くからね。やっぱり。」
「? 私の故郷ですよ。
アンリ様も私に会いに来てくださる時には、セイド国へいらしてくださいね。」
ポーラは右の耳たぶへ触れて見せ、微笑む。
それを見たアンリも鏡のように自分の左の耳たぶへ触れると、昨晩ポーラに貰った金のピアスが揺れた。
「ならば、私からはコレを。」
アンリは自分の右手の人差し指に嵌っていた指輪を抜くと、ポーラの前に差し出した。
「コレは、あの魔法鞄と一緒にサルセノイドの迷宮でギフトとして得たもので、気に入ってずっと嵌めていたのだよ。」
「へ……」
サルセノイドとは森を入った南側に位置する熱帯雨林の中にあるダンジョンだった。
ポーラがテーブルに両手をついて身を乗り出したので、アンリはポーラの左手を取り、小指に嵌めた。
ポーラは右手で自分の左手を引き寄せ、そして翳して指輪を眺めてみる。
指輪は赤い石が嵌っているだけのシンプルなシルバーのリングだけれど細身で、遠くから見れば手元で石の赤がキラッと光るだけに見えるような華奢なものだった。
「コレ…アンリ様のピアスとお揃いでは?」
ポーラが言うと、アンリは頷いた。
「嬉しい! もう、絶対に外さないわ!」
ポーラは瞳を潤ませながら、リングを右手で覆って自分の胸に引き寄せた。
「うん。私も。」
アンリも再び、左耳のピアスに触れた。
「それじゃ、アリー、また来るよ。」
「「「ありがとうございやしたー!!」」」
アンリとポーラは店を出た。
店は、あのマリーの姉のアリーの店なのだそうだ。
どちらの店が美味しかったか話しながら厩舎へ向かう。
が、急にアンリが足を止める。
厩舎を避けるように移動するので気になってアンリを見ると……
アンリは急にポーラの右手を掴むと、猛スピードで街中を走り始めた。
「キャアアアアァァァ!!」
なんて叫び出したいのを我慢して奥歯を噛み締めて必死に足を動かした。
いくら女と言ってもS級冒険者の全速力である。
女装しているものの体はしっかり男であるポーラでも、アンリが手を引いてくれなければ遅れてしまうほど、体力には差があった。
路地に入っても、背後に2人、頭上に1人、確かに追ってくる人間の気配がある。
大人1人、腕を広げてなんて歩けない程の幅しかないところを駆け抜ける。
アンリは土地勘があるようで、迷いなくスイスイと進む。
何度目かの曲がり角を曲がった時、アンリが空いている方の手を前に出した。
すると、少し先で扉がパタンと開き、アンリはポーラと共にその扉の中へ駆け込んだ。
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