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しおりを挟むポーラはアンリの言にパニックになった。
まさか、自分が男だとバレて口封じとして関係を迫っているんじゃないか?
「1人じゃ脱げないのか?」
アンリの手が伸びてきて、もうダメだと思ったその時……
ポーラは足を掴まれた。
「!」
「あ、驚かせたか? ごめん。」
アンリはしゅしゅっと編み上げの紐を解き、あっという間にポーラの靴を両方脱がせる。
そして魔法鞄から取り出した盥にマリーが入れてくれた湯を注ぎ、そこに手ぬぐいとポーラの足を浸けた。
「新しい靴なのに、たくさん歩かせてすまない。
あぁ、やっぱり少し靴擦れになってる。」
ポーラも自分の足を見下ろせば、踵の上が少し水ぶくれになっていた。
アンリはポーラの足を手当てすると、魔法鞄から取り出したサンダルをポーラに履かせ、2人は対角の位置に横になって体を休めながらお喋りをした。
アンリの魔法鞄からゴザを取り出し、アンリが剣で切り倒した丸太の皮を剥いだ上に敷いてくれ、簡易的なベッドを組んでくれたので、野宿とは言え体は全然痛くなかった。
まずは、ポーラがブーツや手当てのお礼を伝えた。
すると今度は、アンリが何故王から追われているのかを話す。
「私が王家に捜索されているのはね、実は王女が私を婿にしたいと言い出したからなんだ。
まったく、1度助けたくらいでよく知りもしない人間を婿に望むなんて、この国は大丈夫だろうか。ハァ…!」
アンリは女だった。
まぁ、強くて美しい、王都のS級冒険者だが。
「以前から何度か誘われていたのを、のらりくらりと躱してはいたんだ。
でもまさか本気で追ってくるとは……
とは言えポーラ!」
アンリはガバリと起き上がると、
「巻き込んでしまってごめん! ポーラ。」
ガバリと頭を下げた。
ポーラは慌てた。
「アンリ様、気にしないでください。
私は、たとえアンリ様が依頼を達成したとしても、何もお支払いすることができませんもの。
でもアンリ様はあの依頼書に、成功報酬を《気持ちだけ》と明記されていましたよね。
私、心苦しくて。」
「いや。それは、私が無理矢理依頼書にサインをしてもらった訳で……」
「でも! それで私、コレをお渡ししようと思ったのです。」
ポーラは自分の右耳からピアスを外し、立ち上がってアンリの隣に座るとアンリの左手にそれを乗せた。
それは、金の家紋のような透かし模様の入ったピアスだった。
「これは、私の実家の家紋が入っていて、身分証明にも使えるピアスです。
S級冒険者なら、顔パスで出入国できますよね?
だから、今度私の国にアンリ様がいらしたら、コレを頼りに私のところまで会いに来て欲しいのです。」
アンリは辞退しようとしたけれどポーラは懇願し、アンリの右耳には既に赤い石のピアスが嵌め込まれていたので、ポーラはアンリの左耳へそれを嵌めた。
ポーラが両手を膝の上へ戻すと、アンリは自分の左耳たぶに触れ、ピアスの存在を確認した。
それから、
「ありがとう。大事にする。」
アンリはポーラにお礼を言って微笑んだ。
──かわいい……
アンリの笑みにポーラは頬が少しだけ熱くなったけれど、目の前の焚き火の所為だと言い訳をして、しばしアンリの笑みを見ていた。
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