【完結】秘密

４

「…ポーラ、ポーラ……」

自分の頭の上から聞こえる声に、ポーラはゆっくりとまぶたを上げた。

暗い部屋の中、確かに自分に覆い被さる人の影が見える。
起き上がって咄嗟に身構えれば、

「あ、ごめん。私だ、アンリだ。」
「アンリ……？　まだ夜明け前みたいだけど？」
「この時間、チャンスなんだよ。ちょっとおいで。」

ポーラは、アンリの後をついて行くことにした。

アンリは２つ上の階─５階─へと階段を上がる。
それから、廊下を突き当たりまで歩くと、１番奥の扉の中へと入った。

ポーラが入れば、ポーラの後ろへ回り込んだアンリが扉を施錠した…のを、ポーラは目を見開いて確認した。

アンリは振り返ると、
「今の時間がチャンスなんだよ。」
と、その部屋の奥の扉を開くとポーラを見た。

「ほら、お風呂。昨日は使わせてあげられなくてごめん。
王都の冒険者は皆みな男だからさ、風呂も男専用なんだ。」
アンリは言うと、おもむろに服を脱ぎ始めた。

「ほら、ポーラも入っちゃおう。
ココは普段は定員８人だから、結構広々してるし、源泉掛け流しだからオススメだよ。」
アンリは次々脱ぎながら、ポーラに話し掛けてくる。

そして、上半身の最後に胸のサポーターを外すと…
ぷるんっ
何か柔らかそうな２つの塊が飛び出し、揺れた。

「あ、ごめん。言ってなかったよな。私は王都の冒険者ではあるのだけど、性別は女なんだ。
だから安心してくれ。女同士なんだから、気にしないで一緒に入ろう。
ぶえっくしょい！！」

アンリは下穿きも全て脱ぎ終えると、喋りながら大きなくしゃみをした。

「すまない。風邪を引くのは困るから、先に入るな。」
言い置いて、扉の向こうの浴室へと入って行った。



残されたポーラは、女子にしては大きな右手で顔を覆っていた。

──まさか、高位ランクの冒険者が女だったなんて……

とりあえず、まず恥ずかしいし、いろいろあって自分は一緒には入れないと思った。
とりあえず、一緒に入れない旨を伝えないとと、先程アンリの入って行った浴室へと続く扉を開けた。

洗い場でワシワシと髪を洗う、アンリの白くて細い背中を見つけたポーラは、意を決して話し掛けた。

「あのっ。私実は女の子の日で……アンリさんが終わったら、サッと汗だけ流させて貰います。」
「え？　そうなの？　それはごめん。あんな男臭い所にいたら、気が滅入ったでしょうに。」
「いえ、お気になさらず。逆に、お気遣いありがとうございましたっ。」

ポーラは扉を閉めると、ホッと一息ついた。

《高位ランク冒険者が実は女》

この衝撃的な事実は、そっと心に仕舞っておこうと、ポーラは思った。