王太子殿下の初恋の行方

325号室の住人

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「これはお前が描いたというのは真実か?」
「そうだ! 俺だ。俺がスゥを…」
「スゥ?」
「スウィールだよ。お前らの国の…」
「は?」
「殿下だよ! 殿下!!……うッ…」

俺は隣国からやって来たクラウス。
身分は隠しているが、自国では王太子の側近のうちの1人をしている。

俺はこちらの国の魔法学園が安全かどうか、安全ならば来年から自国の王子を留学させるべく、調査に来ていた。

隣国の王子の側近である俺は、『隣国からの留学生』ということでこの国の第4王子が付いてくれている。
王子の名はスウィール。
王子のワリに気さくな彼は、俺に自身を『スゥ』と呼ぶ許可を早々にくれる。
俺は剣術が好きで、彼も魔法国の王子ながら剣術が好きなど気が合い、いつも一緒に行動することが多かった。



学園での単独の留学生生活もあと僅かとなった今日…
たぶん気が緩んでいたのだろう俺は、ランチに薬を盛られたようだ。
髪を掴まれた痛みで目が覚めた俺は、この国の近衛騎士の制服を着た男から尋問を受けることになった。

先程見せられたのは、芸術の時間にスゥを描いた絵だ。
2人組になって互いを描き合うように担当の教授の指示に従っただけ。
俺には何ら不審な点はないはずだった。

「このサインは?」
「俺のだ。クラウスとあるだろう? 俺…いッ……俺の!」

近衛騎士にありがちなお綺麗な顔の男だが、やってることはまるでチンピラだな。
……いい加減禿げる!

「こんなモノ、まさかもう何度も描いたのではあるまいな?」
「芸術の教授の指示だ。いつもの教授じゃない。初めて見た男だったが…」
「本当に初めて見たのか?」
「初めて! 初めてだよ!!」

そこへ、不意に扉がノックされた。

「入れ!」
男は言った。
「失礼します!」
入って来たのは、同じデザインながら違う色の制服の男だった。
同じ国の別部隊なのではないか。

やって来た男は、元々在室していた男に何やら耳打ちしている。
2人とも俺をチラチラと…視線は俺を蔑んでいる。

「お前は、隣国の者だそうだな。」
「あぁ。」
「魔法学園の留学生だと?」
「そうだ。」
「もうすぐその期間を終えるというのに、こんな…フッ……」
「なんだ?」
「この肖像は、この国の機密となるが…」
「要らぬ。くれてやる!」

そうして俺は釈放され、そのまま魔法学園へは戻らずに国に返さ……国外追放となったのだった。







帰国した翌日のこと。
王太子に呼ばれ、隣国への留学生活についての報告をすることになり、約1年ぶりに王太子─ウィル─の執務室を訪ねた。

「……という訳で、悪い。1年間の留学、全うできなかった。」
「あぁ。まぁ、いいよ。大変だったね。」

ウィルがくしゃりと笑う。俺の前でだけ見せる、幼馴染の笑顔だ。
俺もつられて笑う。幼馴染の笑顔を返す。

するとウィルは立ち上がり、俺の背中を叩いて労ってくれた。
期間を全うできない=役に立てなかった俺を許してくれるなんて…

実家から迎えに来ていた馬車に乗り込むと、幼馴染の優しさに、思わず目頭が熱くなった。






だが、そうして優しく出迎えてくれたのは幼馴染である王太子殿下だけだった。

国としては、それに実家の公爵家としても、俺が隣国で問題を起こし、こうして強制送還されたことは汚点でしかなかったらしい。

国王陛下の名で、王太子殿下の側近から外されると決定したと父から聞かされ、そして父からは廃嫡の上、勘当を言い渡された。

そうなれば、もう俺は平民だ。
留学期間を満了すれば得られた自国の王立学園の卒業資格も失い、立場上は無学の平民となる。

しかし、身に付いた剣の腕だけは使えるだろう。
俺は平民として辺境に駐在する傭兵団へ参加しようと考えた。

ただ、傭兵団へ参加すれば、この命が尽きるまでその地を離れることはできないだろう。

そこで父から許可を貰い、幼馴染の王太子に会いに行かせてもらえることになった。


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