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決め手はニオイでした 王子✕貧乏男爵令息
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しおりを挟む──へぇ…いろいろあるもんだな。
前世から見覚えのある形や色の他にも、ごく一般的な家庭で育った日本人男子高校生としての記憶に全く引っ掛かって来ない形や色のものまで様々だった。
そこで、テレビで1回見た記憶のある《スターフルーツ》もどきと《シークァーサー》もどきをテーブルにみつけて、その産地が実家と城との間だったことを頭の中で確認すると、そのテーブルの外側にある飲み物のテーブルで水を貰って飲む。
実は、シークァーサーと思っただけで口の中が酸っぱくなって、口の中に自然と唾液が溜まったり汗が出てしまったのだ。
もちろん、他のご令嬢方に同じように飲み物を口にしている人は居ない。
オレだけだ。
でもどうしても我慢できなかった。
その時、ドレスの裾の中にある足をスルスル~っと何かが触れた。
振り返れば真っ白の毛並みの子犬だった。
今生では《犬》を見たのは初めてだった。
だから、もしかしたら獣と間違えたご令嬢方が悲鳴を上げたり気を失う子も居るかもしれないと思ったんだ。
素早く抱き上げると、飲み物のテーブルの裏へしゃがんで衝立の向こうへ子犬の尻を押してやる。
子犬はこちらを振り返り振り返りしていたけれど、ぴょこぴょこと飛び跳ねるようにして、じきに木々の影に隠れて見えなくなった。
それからオレは、徐ろに立ち上がる。
急に生えたように見えたのか、近くでご令嬢が驚いて「きゃっ!」と声を上げたのが聞こえ、オレはますます会場には居づらくなり、豪奢な椅子のあるひな壇の対角線上にある、出口近くの衝立の前に立つと、会場中を見渡した。
上座に当たる、王族の入場の衝立の向こうにもまだ変化はない。
「暑…………あっぢぃ………………」
わかってるけど、つい言っちまう。
それに合わせるように、背中や腋を汗が流れる。
本当は、ツインテだって解いて頭を掻き毟りたいほど蒸れて痒いし、この長いグローブだって脱いでしまいたいけど、招待された貴族の義務としては、夜会に準じて王族の入場までは会場内に留まっているモンだと思うんだ。
だから、もう少しの我慢だぞ、オレ。
〈ご令嬢らのお喋り〉
「あら…何だか異臭がしません?」
「そうですわ。何のニオイかしら。」
「ん! いよいよ王子様方が入場されるわ。あちらへ参りましょう。」
「「えぇ。」」
ご令嬢方の声に反応して正面を見れば、今まさに、この暑いのにモフモフにベルベット素材のマントを身に着けた銀髪のオジサンと、それに続いて青年が4人に少年が1人入場してきて、オジサンが椅子の前に立つ。
「今日は王子たちのためにたくさん集まってくれて嬉しい。皆、身分は気にせず、存分に彼らと会話して欲しい。」
あのオジサンが国王だったようだ。
自慢じゃないが、初めて見た。
ってことで、義理は果たした。
王子たちが着席してない今のうちにと、オレは各テーブルを回って一通り気になった食べ物を皿に盛ると、また出口近くの衝立前に戻って来てバクバク食べた。
オレ的には、肉の挟まったサンドウィッチが好みだった。
──もう1コ…
会場の中央辺り、サンドウィッチのあったテーブルを見れば、そこには銀に近い白髪の、戦士のような鋼の肉体なのが王族の盛装の下に隠れられていないという若い男…王子が居た。
その男と一瞬目が合ったような気がして…
その瞬間背中をツーッと汗が流れて、何だかヤバい気がして…
オレは出口で槍を持った衛兵に持っていた空の皿を渡すと、そそくさと会場を後にした。
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