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警備隊長✕男娼
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しおりを挟む「ここが僕の部屋です。居室兼仕事部屋とでも言うのかな。一昨日の晩、僕があの客と会ったのもここですよ。」
僕の部屋の引き戸を開けて言えば、彼は室内に足を踏み入れるなり鼻の横にシワを寄せる。
──臭い? 失礼な…!
「あの客はいつものように僕に馬乗りになると、ブツブツと何か言いながらニヤニヤと笑って…」
「ブツブツ?」
「えぇ。」
僕は彼に返事をすると、いつもあの客がどんなことを話していたのかと思い出していた。
「僕らはね、基本的に暴力であれ性的なプレイであれ、断りません。だからあの客はいつも、自分の爪を伸ばして研いで、嬉しそうに僕の肌に傷を刻んでいました。
男娼館については、お詳しいですか?」
「………………いや。」
「まぁ、そうでしょうね。多くの男娼館には、回復部屋という癒し専門の部屋が、まぁ大小あるようですけど、あります。
僕も昨日の朝はそこに入りました。
何なら、使用前の傷の記録を運ばせましょうか?
先にお伝えしておくと、爪でガタガタに抉れた傷ですよ。そういえば、いつもは背中と腕が多いのですが、一昨日は胸の辺りも傷がありましたね。」
「胸…?」
「そうです。確か、一昨日は背中に爪を立てながら言っていました。家でも同じことをしたらどうなるだろうかと。」
目の前の男の瞳がギラつく。
「ただ背中でしたし、あのお客はいつもそんなことを言ってました…でもこれまではそんな事件起こらなかった訳で…」
「では何か、これまでと一昨日とで違ったことは…?」
「いいえ。傷の場所が増えたくらいで、特には…」
「なるほど、わかっ」
『ぁあぁっ…いぃ~…もっとぉ…』
『こうか? それともこう?』
『どっちもぉ~! はげしくしてぇ~…』
『どうだ? どうだ? ぬはははは…』
どうやら隣の部屋の住人が客を取ったらしい。
目の前の男は視線を泳がせながら、姿見に掛けられたレース素材の1枚のケープに視線が定まったようだ。
隣の嬌声に負けないような声を出そうとして、でも彼の低音は僕のところまでは響かない。
仕方なさげに僕の右肩に手を置いて、それから僕の右耳に唇を寄せる。
良い声に腰が砕けなかった僕を、僕は褒めたい。
彼から香るコロンも、客らでは手が届かない良い品なのだろう。爽やかな柑橘の香りで僕好みだった。
「このケープの刺繍は…………地方の………なのか?」
途切れ途切れにしか聞こえなかったので、彼の顔を見て訊ねようとすれば、思いの外近くに彼の顔があり、キスしそうになってしまう。
「あ…」
「すまない。」
彼は離れようとしたものの、僕は─いつものクセとでも言うのかな─襟ぐりを両手で掴むと、フッと唇を押し当てた。
彼は僕を振り払うと思った。でも彼は逆に僕の唇を食べるみたいにキスを返してきた。
気持ちよさに僕は腰砕けになって力が入らない。
だから、彼が僕とのキスに飽きるまで、僕らはキスを続けるハメになってしまった。
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