「暑い」から始まる異世界ショートショート集 （シメ）

熊獣人の血を引く騎士団長✕犬獣人の血を引く妻君（♂）

登場人物紹介を兼ねた、はじまり

「暑い…」

今日も汗だくで目覚めた僕は、シャワーを浴びるとベッドに視線をやる。

そこには、今もまだスヤスヤと天使のような顔で眠る、最愛の旦那様の姿。

僕は婚姻から１週間目の花婿である、元男爵家のテル。
眠る旦那様は、公爵家の第２子であり騎士団長のワイズ様。

貧乏だった実家は、ワイズ様に借金のカタにと僕を嫁がせた。
だから初夜から昨日までの６晩、僕はワイズ様と同じベッドに眠っているけれど、僕の身はきれいなまま。
ワイズ様はきっと、僕のことを愛してくださっている訳ではないんだ。

僕も、嫁ぐからには旦那様に足腰立たなくなるほどかわいがってもらうことを夢見ていたさ。
引き合わせられてからの婚約期間には何度もデートを重ねたし、手も繋いだしキスもしたし、抱き締めてもらった。
挙式の後だって、僕のことをお姫様抱っこして退場してくださったし、何なら寝室まで運んでもらった。

だから、僕は夢見てしまったんだ。

でも、冷静になった今ならわかる。たぶん、《借金のカタに》というのが世間にバレないようにという配慮だったのだろう。

僕は、今日までですっかり日課となった僕だけのミッション。《旦那様を起こす》を実行する。

初日となる婚姻２日目は、キスで起こすのが新婚家庭での夢で、やってみた。
でも、簡単に寝返りをうたれて、ゼロカウントになった。

その翌日にあたる３日目は、声を掛けてみた。
「旦那様、朝ですよ～。」
でも、帰ってきたのは…
「ばあや、あと５分！」
だった。

４日目旦那様の体を揺すってみようとして…旦那様の筋肉質で大きな体は、重くて動かなかった。

５日目は、鼻をつまんでみた。
すると、すごい勢いでベッドに押さえ付けられた。
僕はドキドキした。
でもその後に絞め技に入られて、オチた。

６日目である昨日は、蒸しタオルを目元に当ててみた。
気持ちよかったみたいで、それからまたもっと眠ってしまった。

で、新婚休暇の終わる今日。
実は、僕はずっと決めていたことがあるんだ。

僕は、ベッド脇の椅子にバスローブを掛ける。
それで、一糸まとわぬ姿になって、それから…
ベッドの中の、旦那様の腕の中へ再び収まった。

愛なんてなくてもいいんだ。僕は旦那様に抱かれ、身も心も旦那様のモノになりたかった。

だって僕は、旦那様を愛しているんだもの！