「暑い」から始まる異世界ショートショート集 （シメ）

気付いたら人間？ 投稿日を１日間違えてしまったので短いお話を。

１

──帰ろう。それに、人を呼ばないと！

オレはいつものように前足を地面に付けて後ろ足で踏ん張、ろうとして…

──え？　は？　嘘だろ？　ギャイン！　ひぇぇーーー！！！

「どぅぶふぇ！」

変な声を出しながら顔面で地面へ着地した。

──何で！

オレはふらふらとした足取りで、水場を目指す。
とにかく、顔面から着地したくらいのことで顔が痛すぎた。
水で洗えば、あとは走ってる間になんとかなると思ったんだ。

そして湖に顔を突っ込んでザバッと引き上げ、ついでに水を飲んで顔を上げ、湖面が落ち着いてから湖を覗き込むと………

「どぅひあぁぁぁーーーー！！！」

オレは仰け反り、人生初の尻だけで後退った。
いつもの毛のない肌には痛過ぎたが、逆に実感することができた。

「オレ、人間になってるうぅぅぅーーーーー！！！！！」

しかも、あの髪色にほぼ開はだけてるシャツってもしや…？

──ゲイルかよ！！！

たぶん、ソレが衝撃的すぎたんだろうな。オレはそのまま人生初、気を失った。






私がソレを見つけたのはたまたまだった。
私は戦のため敵国との国境に詰めていた、この国の第２王子である。

膠着状態が続いて数ヶ月。
父よりも好戦的な王太子の命を受け、その日は国立魔術師連合の有志が戦場にやって来た。

魔術師隊や魔法騎士団は国の管轄だから、父王にしか権限がない。
だから兄には、戦と関係ない魔術ヲタ集団を動かす力しかなかったようなのだ。

普段は、広大な小麦畑での水やりを簡単に済ませる魔術や、足腰の立たなくなったおじぃおばぁに自立を促し自力で厠へ向かわせるための手助けの魔術、口うるさい奴をいかに剥げさせるかの魔術などを研究している国立魔術師連合の有志としてやって来たのは３人。
それでも自分に何ができるのかと頭を抱えていた彼らだったが、敵陣から最近聞こえてくる何かの動物の遠吠えに、その動物の近くに雷を落として驚かせて、パニックになった動物達が敵陣を襲うという、他力本願的な作戦を決行するに至った。



何とその作戦は半ば成功した。
動物は暴れなかったものの、雷が幾つも敵陣の本隊や本陣へ落ち、パニックになったところへ我々が攻め入ったのである。

雷が命中して倒木の巻き添えになった者や、驚いた拍子に腰を抜かした者、驚き過ぎて心臓の動きがおかしくなった者など、雷が直接的な原因での死者は出なかったが、敵陣の人間はその殆どを捕虜として国立魔術師連合手により我が国の王城へと運ばれた。

だが、敵の中で１番の危険人物─血濡れの黒騎士─と呼ばれるゲイル・カランミュラの姿がなかった。
誰が逃げたって構わないが、奴だけは危険だ。奴ならたった１人でも１隊相手にするのと同じだけの力があるとの噂がある男だった。

黒髪に金眼、顔が整っているのもあって国にはファンクラブもあるとか。

私は側近２人と本陣の裏山へ入り、ソレを見つけた。

雷が命中したのか絶命した馬と散乱した衣服や軍人用のブーツ、見覚えのありすぎる剣、そして向こうに見えたのは、膝を左右に大きく開き、白いものを切っ先から漏らした、顔を腫らしてまだ固まっていない血だらけになった、全身傷だらけで衣服の乱れた、黒髪の男だった。

振り返れば、散乱した衣服には平民以下のボロも混ざっているため、どうやら山賊に襲われ慰み者になった後に何らかのショックで絶命したと思われる。

せめて膝だけでも閉じてやろうという慈悲の気持ちからの行動だった。
ゲイルに近付き膝に触れた瞬間だった。

「あうっ！」

私はゲイルに蹴られ、意識を失ってしまったのだった。