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騎士団副団長✕料理当番の見習い騎士
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しおりを挟む「できた!」
パルゥは、渾身の夕食の1番最初の一皿トレーに乗せると、他の鍋や皿やカトラリーをワゴンに乗せて食堂まで運んで食事の合図となるハンドベルを鳴らした。
それから厨房へ戻ってトレーを持つと、この詰め所兼宿舎の最上階の廊下を進み、突き当りの扉をノックした。
返事はない…………………今日も。
それからまた扉を潜ると、寝室へやって来た。
大きな部屋の、約半分を占める大きなベッドの真ん中には、眠る1人の男。
──ただ眠っているだけでも、髭って生えるんだな…
藁色の少し傷んだ髪と同じ色なんだろう髭は、彼の鼻の下に数本頭を出していた。
サイドテーブルの上にトレーを置くと、パルゥは靴を脱いでベッドに上がり、男の横へ俯せに寝転がった。
重ねた手の上に右頬を乗せると、男の少し痩けた頬が、閉ざされた瞼がピクリと動く。
ここ数日、この反応ですぐに目覚めるのではないかと何度期待したものか。
でもそれはただの反射のようで、《目覚め》には繋がらなかった。
この部屋のこのベッドで眠り続けるこの男は、我が騎士団の副団長、パルゥの師匠であるフェリオだ。
彼はひと月前にあった魔獣の大量発生の際にパルゥを庇い、どの医師に見せても健康体だと言われるものの、眠ったままなのだった。
「副団長、とうとう俺が運ぶ最後の食事になりましたよ。あ、その前に、体を清めましょうね。」
パルゥは再び四つん這いでベッドを進むと、食事を運んでくる前に用意していた桶の中の布巾を絞って再びフェリオの元へ戻った。
まずは顔を拭き、頭を持ち上げて首周りをぐるりと拭く。
少しの間フェリオの額から瞼辺りに布巾を乗せると、そのうちに寝巻きのボタンを外していく。
左右に開けば、少し減らしたものの、鍛え上げられた筋肉質な体が目に入る。
──ここにお世話に来るのも、今日で最後なんだ…
パルゥはそう思うと、無意識のうちにフェリオの胸に唇を押し付けていた。
「ハッ…いけない、こんなこと。」
パルゥは理性を取り戻し、体の前面を布巾で清める。
桶で布巾を洗い、今度は少し体を傾けて背中も拭くと、今度は自分の頭の上に布巾を置いて寝巻きの袖を抜く。
次は下履きに手を掛け、そろりそろりと引き抜くと、そのまま足指から上に向かって拭き清める。
何度か布巾を洗って股間までやって来ると、いつもは感じない違和感に気付く。
──いつもより大きい?
眠る彼の膝を立て、覗き込むようにしながら念入りに拭き上げ、着替えを済ませると、次は食事だ。
枕をいくつも重ねて背中を持ち上げて寄り掛かるようにしてから、宿舎にある1番小さな匙でシチューを掬って口元へ運ぶ。
まぁ、わかっていたことだ。昨日までと同じで飲み込まれることはなく、口の横から流れて行ってしまうのを前掛けのポケットから取り出したガーゼのハンカチで拭う。
続いてはシチューに入っていた野菜を匙の裏側で潰したもの。
虫が食べるくらいの小さな小さな欠片を口の中に押し込むけれど、匙では歯は閉じたまま。
──仕方ないか…
パルゥは野菜や肉を除いたシチューを口に含むと、そのままフェリオに近付き、唇を合わせる。
歯は舌を挿し込めば隙間程度に開くので、そこからフェリオの顎を上げさせてパルゥの口内のシチューをフェリオの口内へ流し込む。
すると、反射で嚥下してくれるのだ。
パルゥは同様に、そうして持ってきたシチューを全てフェリオの口内へ流し込んだ。
フェリオの喉仏が上下するのを確認すると、
「それじゃ副団長、俺は後片付けに戻りますね。今日までお世話させてもらって、ありがとうございました。
また寝る前に食事の片付けに参ります。」
パルゥはフェリオの耳元へ囁くとベッドから降りて一礼し、空いたシチュー皿と匙だけ持って、来た廊下を戻って行った。
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