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いよいよお務めの終わり

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「ラウルよ、問題が起きた。」



グラント様のところで王太子御一家に向けて1曲歌ったら、侍従さんが呼びに来てくれて、すぐに国王陛下に会うことができたの。

ギリアン爺とマリー様のことをお伝えし、その場のみんなで『芽吹きの歌』を歌ったわ。
ギリアン爺との思い出の歌だもの。お二人を思い出しながら歌ったの。

国王陛下から声が掛かったのはその後だったわ。
問題って何かしら。

「実は隣国から、ラウル第2王子と王女との婚姻の話が持ち掛けられたのだ。
我が国の王子ならば側妃を持てるという大陸の法が適用されると言われて。まぁ、我が国では建国以来側妃を持った王の存在は皆無だがな。」

瞬間、私の中の女神が反応するが……

「俺にはセアリアだけって言ったろ。」

ウルに抱き締められて背を撫でられ、頬に指を沿わされてこめかみにキスをされれば、私の中の女神は落ち着き、私自身は人前でのキスに顔が真っ赤になってしまう。

「セアリアには珍しくかわいい反応だな。」

嬉しそうな顔でウルが私を見下ろすけれど、顔の色がすぐに戻る訳もなく、不敬ながら暫く国王陛下に背を向けるハメになってしまった。

とりあえずラウル殿下の側妃の件は、国王陛下が書簡にて断ってみるとのことだった。



それから、私とウルの新居についてどうするかという話になる。

本来ならば私の聖女引退で、私はただの平民になる予定、ウルは第2王子をすぐに引退して、ただの貴族を数日過ごしたのちに神官メインの田舎暮らしになる予定だった。

けれど私が生涯《歌姫聖女》となるなら、まず、何かの儀式の度に歌い、何かの祭でも歌い、朝に夕に女神へ歌い、《女神のドーム》が必要なら歌う、そんな生活となる。
逆に、そんな唯一無二の聖女の伴侶となると、ウルの《王子》という立場があった方が、他国から狙われたり害されたりという心配がなくなるらしい。

加えて先程のウルと女神との約束や、ウルに別の女性が近付いただけで起こりつつあった女神の怒り…

それらを考えるなら、私とウルは王城または中央神殿に住むのが良いと言われ……

「絶っっっ対にイヤだ!!!」

ウルに真っ向から反対された。

「それなら、いい場所があるじゃねぇか!《祈りの塔》だよ!」
「祈りの塔?」
「あぁ。この国の何代か前、《神話の国》と呼ばれる国があった。
その国には、『聖女が神に祈りを捧げるための《祈りの塔》と呼ばれる塔があり、不思議なその塔は入口も不明、中に入る条件も不明、どうやっても聖女の他には魔力量の多い魔術師以外は入れなかった。』と、古い書物に記述があった。
俺とセアリアはそこに住む!」

ウルはそう言い放つと、左手で私の腰を抱いたと思ったら、

シュンッ

ウルの魔法で何処かへ移動してしまった。


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