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いよいよお務めの終わり
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しおりを挟む「やや!」
「何ですかぁ?」
ウルの周りの人々は、空の変化にすぐに気が付いたようで一言だけで押し黙って空を眺めた。
さすが親子だ、首の角度が全く同じだわ。
「セアリア?」
力の抜けた女の腕を振り払ったウルは私のところにやって来ると、何も言わずに私を抱き締めたの。
ウルの体にすっぽりと包まれて、大きな手に背中をゆっくりと擦られながら、
「大丈夫。大丈夫。」
ウルが私の頭の天辺から呪文のように繰り返せば…
私の中の女神が落ち着き、怒りが収まって、やっとウルの体の温かさを感じることができる。
「ウル…」
呟きながらゆっくりとウルの匂いを吸い込めば、今度は女神の怒りに慌てた私自身が落ち着いてくる。
私の髪をゆっくり撫でていたウルが少しだけ体を離すと、すぐに顔が近付き、唇に柔らかいものが触れる。
まるで体の中からも温めようとしてくれているみたいに、口内に舌が入って熱を帯びたキスになった。
苦しくて唇を離しても息継ぎののちすぐに再開し、フガフガと全く色っぽくない呼吸音が鼻から漏れてしまう。
すると、やっと唇を解放してくれたウルが少し体を震わせていることに気付いた。
様子を窺っていると…
「ップクク…」
ウルが噴き出す。
「フガフガって…本当にセアリアは色っぽさの欠片も…って言うか、本当にいつものセアリアに戻ったな。良かった。」
やっとこさ呼吸の整った私が顔を上げれば、満面の笑みのウルの向こうの空にはぽっかりと夏らしい入道雲。
どうやら、女神の怒りが収まったことで、空模様も落ち着いたようだ。
気付いたらさっきの親子は消えていて…
私とウルはグラント様のところへ足を向けたの。
「転生の時、女神と約束したんだ。鈴を別の世界へ連れて行ってしまうなら、俺も一緒に行かせてくれ、と。
それから、俺にトムの記憶を残して欲しいと。
そうしたら女神が、
『《歌姫》にはのちに《聖女》になってもらいます。その時には《歌姫聖女》を心から愛し、支えること。浮気はダメよ、絶対!』ってさ。
何でも、日本を守ってた男神に浮気されたとかで修羅場ってるところを、鈴が俺に歌った《レクイエム》で心洗われたとかで。」
「私は全然憶えてないわ。」
「あぁ。その時の鈴はまだアイツに魂囚われてたし。」
「アイツ?」
「ほら、悪霊になって、この度お前に浄化されたアイツ。」
「あー、アイツ…」
「その時にさ、俺ものちに《魔法聖騎士》やら《神官》やらになれる素質を持たせてくれたんだよ。」
「私の知らないところでも助けてくれていたのね。ありがと。」
私はウルの左腕を引っ張って顔を下げさせ、ついでに背伸びをして、ウルの頬にキスをした。
ウルは真っ赤な顔で私を見下ろすと、その場に跪く。
私の右手を両手で包み、
「どうか奥さん、安心してくれ。婚姻式はまだだけど、俺はとっくに女神に誓ってセアリアを愛してるんだ。
生涯愛し続けるし、生涯セアリアだけだ。」
右の手のひらにウルはキスをした。
私はマナーがわからなくて、その場にしゃがむとウルの唇にキスをしたの。
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