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もろもろあって、最後の1年

感謝と労い

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ラウル王子…いや、ウル?が、体ごと私に向かうように座り直す。

「セアリア…国の極秘事項だったからって、いろいろ黙っていてごめん!」

ウルはガバリと頭を下げた。

「いいの。いろいろ謎がとけたわ。例えば、どうしてウルがコンサートに出なくなったのか、とかね。」

ウルはポリポリと頬を掻きながら、申し訳なさそうな表情をした。

「あのコンサートには、高位の貴族も来てたんだ。まぁまぁ父やグラントに会ってる人が見て、『あれ?』ってことになっても困る。
まぁ、今は父に第二王子だって証明してもらってるけど、その時は、な。」
「ふうん。」

私の知らない裏側では、様々なことがあったのだとわかった。

「それにしても……はぁ~…ホント、間に合って良かった。」
「あ、ウル! 背中の傷は?まだ痛いんじゃないの?」
「大丈夫。それは、《癒しの聖女》が治してくれた。見るか?」

ウルは、見慣れないキラキラした青の上着を脱いで背凭れに掛けると、フリフリしたシャツのリボンを解いて襟元をくつろげ、あっという間に私に背中を向けた。

シャツがストンと落ち、ウルの背中が露わになる。

きめ細かい肌に、一番新しい傷はしっかりと傷口が閉じて少し剥がれた瘡蓋になっている。
少し古い傷は、傷の部分だけ新しい皮膚になったように傷痕としての主張がある。

そして、1番古く見える傷…
スラックスの腰紐の辺りに歪な丸い痕を見つけ、触れると、ウルの体がピクッと跳ねた。

「他にも撃たれたところはあったわよね? ……………………トム?」

「あぁ、やっぱり憶えてたんだな、りん。」

りんは、私の前世の本名だ。最初は《鈴》として活動していたけれど、海外へ公演に行くようになると《リィン》と呼ばれるようになったのだ。

私の本名が《鈴》だというのは、ほぼ毎日付き合いのあったSPの中でも、国籍が日本だったトムくらいしか知らないだろう。

「あの時、鈴を守ってくれてありがとう。私のせいでトムの人生を終わらせてしまってごめんなさい。」

ウルは振り返る。

「俺こそ…守り切れなかったこと、ずっと申し訳ないと思っていた。あいつは要注意人物だったのに、プライベートジェットを所有しているんだ。あそこに現れて当然だったのに、判断を誤ったんだ。」

ウルの言葉は聞こえていた。
けれど、私の耳には届いていなかった。

ウルの裸の胸側をこんなに近くで見るのは初めてだった。

ウルの胸側には、背中側からでは見えなかった歪な丸い痕がたくさん残っていたの。

私はウルの胸の痕1つ1つに指先で触れる。

「こんなところにも…よく最期まで倒れないで私を……ありがとう、トム。」
「鈴こそ。俺のために歌ってくれた『レクイエム』、ちゃんと聞こえた。《トム》の望みを憶えていてくれたんだろう?ありがとう。」

私はかぶりを振ると、心臓に近い1つには唇を寄せた。

「んっ?」
「鈴の代わりに、トムにお礼と労いをしたいの。」
「わかった。」

ウルの胸側の痕は、10ヶ所以上はあった。
その1つ1つに、感謝の気持ちを込めてキスをし、最後には脇腹に近いあの傷痕に口付けた。

すると、それらの痕がキラキラした光を発し、光が収まると痕が消えていたの。


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