27 / 43
もろもろあって、最後の1年
豊穣を祝う祭と最近の私
しおりを挟む私は来年の夏、とうとう《歌姫聖女》を引退する。
25歳を迎えるのだ。
11歳で受けたのが仮認定だったらしく、それから再び認定を受けたりしながら13年。
いろいろなことがあって、いろいろな《聖女の御業》も覚えた。
歌う動物との会話、広範囲に結界を張ること、歌で祝福したり、歌で神々へ御礼を伝えること、発芽させたり開花させたりの促進…
最後の1年は中央神殿に滞在して、次の聖女となる聖女候補達に自分の得た《聖女の御業》を教え伝えることになっているの。
さて。
今日は秋の豊穣を祝う祭よ。
王城前の特設ステージで他の聖女達と神々へ祈りを捧げるの。
最初にこのステージに立った時は慌ただしかったけれど、20歳を過ぎてからは歌の直後に観衆を見回して、とある条件にハマる人を探している。
ズバリ、好みの背中を持つ人!
前世の記憶のせいか《頼もしい背中フェチ》になったみたい。
男性を見ると、いつも背中をチェックしちゃうのよね。
王城内の楽屋で衣装から着替え、髪をお下げにして瓶底メガネを掛けた。
急がなければ!
両手を握り締めると、ステージ上から目星をつけていた人物の元へ急いだ。
──あの背中だわ!
私は、幸運にもターゲットの背中に追い付くと…
「ああああの! おおおなおなお名前を教えてください!」
勇気を振り絞った一大告白。
けれど、振り返ったのは中年の男だった。
「何だぁ?お前…」
男の向こうからやって来た中年女性には、
「うちの人に何か用かい?」
「ももも申し訳ありませんでした!!!」
残念ながら既婚者ということで、私、告白直後に失恋となった。
「あぁ、まただわ。」
私の好みの背中の持ち主はたいてい平民の農民や鍛冶屋が多い。
だって、いくら聖女だからと言って貴族とは結婚できないもの!
でも、平民は一人前の18歳やそこらで一家の主となる。
だから、私の(背中への)一目惚れは成就した例がないの。
私、本当に結婚できるのかしら。
意気消沈したまま、足取りも重く、現在の住まいである中央神殿へ帰ってきたのよ。
「お帰りなさい、セアリア。鍛冶屋の旦那はどうでした?」
中央神殿へ帰ると、長い金髪を後ろで束ねた白のローブ姿の青年が、箒片手に声をかけてくる。
彼は私と同じ孤児院の出身だから、いわゆる幼馴染ね。
前に住んでた国境近くの山の上の神殿では気安い話し方をしていたのだけど、ギリアン爺に注意されて、他の聖騎士や聖女の視線もあるココでは、言葉遣いは直してるみたいね。
「ただいま、ウル。やっぱり気付いてたか…
うん、また今回もダメだった。」
私は無理矢理笑顔を作ると、ウルに答えた。
「そう……それは残念でしたね。」
「《残念》だなんて欠片も思ってないって、顔に出てるわよ。」
「セアリアこそ、被ってたネコ、どっかに落としてるぜ。」
「何ですって!……もう部屋に帰る。」
最近の私とウルはいつもそう。
会えばこうして憎まれ口を叩く仲。
私が芽吹きの時期にどこか地方へ行く時には魔法聖騎士になるウルは、豊穣の秋のステージを終えて出番の少なくなる今頃からは神官でいることが多くなる。
バタンッ
でも……
部屋に戻って扉を閉めた途端に私は両頬を押さえてベッドに突っ伏する。
最近の私はいつもそう。
ウルと話したあとにはいつもこう。なんか、顔が熱くなっちゃうの。
ウルは成人を迎えてまた一段と美人になった。
冬の間、仕事の少ない私と一緒に神殿に籠もるだけでどんどん色素が薄くなって、見た目だけなら絵本の世界の王子様みたいになるのだもの。
「平気な顔して直視なんてできないわ!」
枕に顔を押し当てて叫ぶと、
ココココンッ
ノックの音が響く。
このノックはウルからという合図。
「セアリア、入るぞ。」
声と共に魔法で解錠された扉が開く。
「セアリア、神官長が呼んでる。」
顔を出したウルと一緒に、神官長の執務室に向かった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる