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1人暮らしを決意していた、18歳頃

再会

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「ウル…なの?」
「そうに決まってんだろ! って言うか、お前遅いから腹減った。先に飯にしようぜ。手は洗ってきたんだろうな?」
「……あ、ごめん。行ってくる!」

私はなんだかいろいろ混乱して、お勝手の隅にある手洗い用の水甕から杓子で掬って済ませればいいところを、裏口の井戸まで走ろうと勝手口の扉に手を掛ける。

すると、後ろからウルに抱き締められるみたいにすっぽりと体を包まれる。

「は? ここで洗えば良いだろうが! って言うか…『浄化!』はい、終わり。」

ウルは、あっという間に私の手を神官魔法で清めると、何事もなかったように離れ、神官用のローブが無造作に置かれた椅子を顎で示す。

「ホラそこ座れ! 盛るぞ!」

ギリアン爺は、本当は使えたけれど神官魔法はホイホイとは使わなかった。『人が動いて自分でできるなら、きちんと体を動かしてやった方がいいのじゃ。』なんて言って…

調理用の作業台に布を敷き、以前から使っている木匙を並べ、木の深皿に山に盛ったシチューをドゴンッドコンッと置き、白いスコーンを2つずつシチューの横に添えると、私の背後に回って着ていた聖女用のローブを手早く脱がしてくれた。
普段は前掛けを引っ掛けているフックに吊るし、無造作に置かれた神官用のローブも隣のフックに引っ掛けると、作業用の丸椅子にドカリと座った。

その迷いのない一連の動きをボーッと眺めていた私も、ウルの『早くしろ』的な視線を感じ、慌てて向かいの丸椅子に掛けた。

祈りの姿勢を取り、ギリアン爺のよりもだいぶ短縮された、
「今日の糧に感謝を! いただきます。」
の声と共に木匙を掴むと、大きな口でパクパクと食べ始めた。

孤児院時代と変わらない、『早く食べないと自分の取り分が減る』という感じに黙々と食べるウルに感化されて、私も食べ始める。
木匙で掬ったスープをコクリと飲み込めば、胃がふわっと温かくなったのがわかった。

そこでやっと頭が動き出したの。

「あ! 女神様に帰宅の挨拶を忘れたわ!」

立ち上がろうとすれば、お代わりのため皿を持ち、木匙を咥えたウルに手を掴まれる。静かにかぶりを振るウルには、孤児院時代からの刷り込みで逆らってはいけないと、私はそのまま丸椅子に腰を落ち着かせる。

「セアリアはまず喰え! 生身の体を持たない女神様よりも、先ずはお前の体を優先してくれ。顔色が悪すぎる。
フーフー…ん!」

お代わりを盛ってきたウルは言うと、食卓の向こう側から握った私の木匙にシチューの中の蕪を乗せ、私の顔の前に差し出した。

「ホラ、口開けろ!」

孤児院でも私が小さい子を優先して自分がなかなか食事に手を付けない時にはそうしていたウルを思い出し、素直に口を開く。
よく煮込まれた蕪は、口の中であっという間に溶けてしまった。

「美味し…」
「だろ? 女神様には、あとでお詫びに1曲多く歌えば良いから! 先に喰おうぜ。」

ウルがニカッと笑う。
孤児院時代と同じ笑い方のウルは大きさだけが変わったみたいで…
私はすっかり安心して、ゆっくりと食事を始めたの。

まぁ、その間にウルは何度も立ち上がってはシチューをどんどん腹に収めていたのだけと…
とにかく黙々と、普段食べる量の何倍もの目の前のシチューに向き合ったの。


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