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孤児院での暮らし・11歳

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ウルの真面目な表情に、私の頬も一気に冷める。

「だって、俺はもう、こんな声だし…」
「声変わり……って言うんだっけ? 低いのもいいと思うよ。」
「女子の中に1人って、目立つんだよ。」
「……女の子みたいにカワイイ顔のくせにさ…」
つい、ウルが気にしてることを言ってしまえば、瞬時に表情が変わる。
「は? 何か言ったか?」
「……ハァ…私の方が男の子顔だって言っただけよ!」

すると、ウルが表情を崩して私の方を見た。

「なぁに言ってんだよ。セアリアは女の子だろ?」
ウルの右手が私の顔に伸びると、一瞬優しく触れてから軽く頬をつねった。
「もう! 女の子にすることじゃないでしょう!」
「ガハハハハ…」

ウルは見た目だけは絵本の王子様みたいなのに、笑い転げているところはただのガキんちょだ。
だからいつも、ちょっと見惚れそうになってもそんなのすぐに忘れちゃうんだ。

「私達は今年が最後になるでしょ? だからウルと歌いたかったのに…」
「じゃ、今歌おうぜ。♪~」

私とウルは、上のパートや下のパートになりながら、春の芽吹きの歌を歌った。

最後のロングトーンは、コンダクターなんて居なくても全く同じタイミングで目を閉じて余韻に突入する。

瞼を上げればにっこりと笑った天使みたいなウルが、頬がポッと染まった…?
やっぱり一緒に歌うのって楽しいのよ! きっと私の頬も赤みがさしてると思うわ。

「うん。発声練習はバッチリだな。」
ウルがニカッと笑う。
「ありがと。同じステージに立てないのは残念だけど、ウルは自分を曲げないものね。」

今度は頬をポリポリと掻いてる。

「じゃ私、行ってくるわ。」
「おう! 頑張れ。」

そうして拳同士を合わせると、私は木から降りてシスター達のところへ合流した。



着替えを済ませると、そのまま舞台袖に移動してすぐにシスターがタクトを振る。

『春を祝う歌』、『初春薔薇の歌』、それから『芽吹きの歌』を歌う。
『芽吹きの歌』にはその年にコンサートを卒業する子のソロがある。

私のソロパートに入ればシスターは端に避け、逆に私は1歩前へ出る。
緊張するから目を閉じて、大きく息を吸うと歌い始めた。

まだ少し寒い、澄んだ空気に歌声が溶けるみたいに混ざって行く。

気持ちの良さに浸っていると不意に薔薇が強く香り、客席にどよめきが起こる。
それでも関係ないと、私は最後のステージの最後のソロを楽しんだ。

だって、普通のお針子はステージでソロを歌わないもの。
私の人生で多分最後のステージになるだろう。

だから、力いっぱい心を込めて歌い上げた。

また最初の旋律が戻り、私のソロは終わった。
1歩下がって瞼を上げれば、コンサートの最初に足を組んで座っていた貴族のオジサン達が皆立ち上がっている。
伯爵様たち貴族の奥様方は祈るように手を組んで、涙まで流している。
薔薇の香りはまた一段と強く私達を包み、最後のフレーズが終われば割れんばかりの拍手に包まれた。



それから、約1時間後。
私はシスターと共に、中央の神殿へ向かう馬車に乗せられていた。

ステージをやり遂げた達成感と馬車の揺れで、だんだんと瞼が重くなってくる。

「このあと、中央へ到着したらきっと休む間もないわよ。今のうちに眠りなさいな。」

シスターの声に完全に意識を手放し、シスターに起こされると既に景色が変わっていた。
絢爛豪華な城の中だったのだ。

私は目に入るものが信じられなくて、ポカンと口を開いたままシスターに手を引かれて足を動かす。

その先のひときわ大きく豪華な扉を抜けた先でまた歌えば、コンサート翌日の早朝には《歌姫聖女》との認定を受けていたのだった。


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