夫の浮気を突き止めたら監禁された

くじら

文字の大きさ
上 下
6 / 10

#6 夫の浮気を突き止めたら監禁された

しおりを挟む




娘から京介さんが浮気しているかも、という相談をされた時は、「そんなバカな」と思った。

でも、送られてきた証拠……それは確かに女性と一緒にいる写真だった。

娘が裏切られている……そう考えただけで自分のことのように怒りが込み上げた。


「あなた……」

夫も当然そうだと思った。

だけど、

「放っておきなさい」

夫の言葉に、私は愕然とした。


「そんな……」

「離婚させるつもりか? 離婚して、真琴はどうする?」

ハッとした。

「京介くんは優秀だ。一家のために多少の我慢はさせろ」


「……それがあいつのためにもなる」

私は黙って頷くしかなった。

「……はい」

そして、地獄が始まった。



真『今から帰るから』

その日、まず真琴から連絡があった。

少しいつもと違う声のトーン。

「帰ってくるって……」



なんとなく察しはついた。

「わかった……気をつけて」

ため息をつく。


京介さんから電話があったのは、それからすぐだった。

『もしもし』

「京介さん……」

『ごぶさたしております』

それはひどく爽やかな声だった。


咄嗟に浮気した、という真琴の言葉を思い出し血が上る。

「……どうしたの?」

『ええ、大変申し訳ないんですが……』


『そちらに真琴が行くかと思いますが、なんというか、ちょっと精神が錯乱していまして……』

「錯乱?」

『はい。僕に関してあることないことを言うかもしれません』

『僕が浮気している、だとか』


この男……!

怒りで頭が真っ白になる。

怒鳴ろうとした瞬間、腕を掴まれる。

夫が手を掴み、首を横に振る。


それから受話器を取ると、

「ああ、京介くんか」

「ああ」

「わかった。苦労をかける」


しばらくして受話器を置き夫は、

「今から京介くんが来るそうだ」

と言った。

「……真琴が来るのよ」

夫は私の言葉に頷く。


それから、

「ああ、だから……」

「……真琴には京介くんが来ることを言わないように」

結局、私は京介さんのその言葉を嘘だと知りながら受け入れることにした。


家族の平穏のために……





静かに響く食器の音。

息が詰まりそうだった。

娘に嘘をついていることが苦痛だった。

罪悪感で頭がどうにかなりそうだった。


「どうしたの? お母さん……食欲ない?」


食欲なんか湧くわけない。

しかし、何も話さないわけにはいかない。

「これからどうするの?」
と私は娘に聞いた。


真琴は一瞬驚いた顔をして、

「とりあえず、弁護士に相談しようと思う」
と言った。

ああ……もう覚悟が決まっているんだ。

そう思った。


沈黙していると、夫が諭すように、
「なあ、離婚はまだやめたほうがいいんじゃないか」
と言った。

その時の娘の顔を私は一生忘れない。

「え……どういうこと?」


「もう少し、冷静に考え直した方がいい」

「ちょっと! 何言ってるの?」

「その浮気なんだが……本当に浮気なのか? お前の勘違いってことも……」


「京介くんは高校の同級生だと言ってるそうじゃないか」

絶望した顔の真琴。

もちろん、私も夫もそんなこと信じていない。

でも、信じたふりをするしかない。


私は卑怯者だ。

何も言うことができない……


玄関の呼び鈴が鳴った。


「……出てくるわね」


誰が来たのかはもちろんわかっていた。



玄関を開けると、京介さんが立っていた。


「京介さん……」

してはいけないと思うのに、どうしても険しい顔をしてしまう。


彼はにこやかに笑う。

「こんばんは」


「すみません。お食事中でしたか?」

あまりにも平然とした態度。


「あなた、本当に……」

口から言葉が出かけるが、なんとか堪える。



「……真琴なら、リビングにいるわ」

「……上がって」


「ありがとうございます」

そう言って娘の夫は家に上がる。


私はその後ろ姿を見ながら、顔を覆った。

自分の一番愛する娘を、私は自分の手で……


真琴「……ちょっと、どういうこと?」


娘の顔をまともに見ることができなかった。

罪悪感で胸が押しつぶされそうだった。

「京介くん、真琴をよろしく頼むよ」

「はい」


全部、茶番だって知っている。

知っていながら、私たちは……

私は……


真琴が京介に連れていかれる。

「真琴……」

「お母さん!」


助けを求める真琴に、私は何も言えない。


玄関のドアが閉まる。

私は玄関のドアに手をつく。

「ごめんなさい……」

「ごめん……」

外からは真琴の抵抗する声。

私はその場に崩れ落ちた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『霧原村』~少女達の遊戯が幽から土地に纏わる怪異を起こす~転校生渉の怪異事変~

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は和也(語り部)となります。ライトノベルズ風のホラー物語です》

限界集落

宮田歩
ホラー
下山中、標識を見誤り遭難しかけた芳雄は小さな集落へたどり着く。そこは平家落人の末裔が暮らす隠れ里だと知る。その後芳雄に待ち受ける壮絶な運命とは——。

奇怪未解世界

五月 病
ホラー
突如大勢の人間が消えるという事件が起きた。 学内にいた人間の中で唯一生存した女子高生そよぎは自身に降りかかる怪異を退け、消えた友人たちを取り戻すために「怪人アンサー」に助けを求める。 奇妙な契約関係になった怪人アンサーとそよぎは学校の人間が消えた理由を見つけ出すため夕刻から深夜にかけて調査を進めていく。 その過程で様々な怪異に遭遇していくことになっていくが……。

歩きスマホ

宮田歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

寺院墓地

ツヨシ
ホラー
行ったことのない分家の墓参りにはじめて行った。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

禊(みそぎ)

宮田歩
ホラー
車にはねられて自分の葬式を見てしまった、浮遊霊となった私。神社に願掛けに行くが——。

強靭で純粋なる殺意の塊

ツヨシ
ホラー
車から降りて来た男は、まさに殺意の塊だった。

処理中です...