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アンコール
しおりを挟む「お兄ちゃん部活終わった? 終わったら一緒に帰ろうよ」
夕方の小学校の音楽室。
吹奏楽部で使ったユーフォニウムを片付けていた少年が、わざわざ音楽室までやって来た弟にそう言われ、ケースを持ちながら答えた。
「なんでこっちまで来るの。俺が図書館に迎えに行ったのに」
「いいでしょ別に」
「よくないよ…」
少年はどうやら弟がそうやってじゃれてくるのが恥ずかしいらしく、同じように楽器を片付ける女子の目線を気にしている。
楽譜やら譜面台やら皆と協力して片付けている間に、あまり音楽室に縁のない弟はあちこちを物色していた。
「クライナフルス…エンデアル…変な髪。モ…モ…お兄ちゃんこれなに?」
「モズアルト」
高い所に飾られている音楽家の肖像画が気になったらしく、左から順番に読み上げていく。
「モズアルト…ベスホーフン…ノーテヴォー? …ねえお兄ちゃん」
「もう、なんだよ。帰るぞ」
「なんでこの人だけ絵がかっこいいの?」
「かっこいい? ああ、別にそれだけかっこよく描いたわけじゃないよ。かっこよかったんだって」
他の生徒が全員帰り、少年は弟の隣に来ると一緒に肖像画を見上げた。
「ノーテヴォルト…シュヴァン――」
「ノートヴォルトだよ。お前去年の合唱で歌っただろ」
「去年? なんだっけ?」
弟の音楽への興味のなさに兄が溜息をつく。
「カノン。元々合唱曲じゃなかったけど、この人の曲を合唱用にしたんだって」
「へー。誰が?」
「そこまでは知らない」
もう暗くなり始めた教室の中には2人しかおらず、見回りに来た先生に「もう帰りなさい」と言われた2人は教室を後にした。
先生の「ライト・オフ」と言う声に反応した灯りが消え、扉の閉まる音が聞こえた。
「なんだお兄ちゃんなんでも知ってるかと思った」
「そりゃ知らないことだってたくさんあるだろ」
「じゃあさっきのノーテなんとか、他に僕が知ってるのある?」
「ノートヴォルト。えーとなんだっけ…あ、運動会とかで使うファンファーレあるだろ?」
「あのラッパのやつ?」
「そうそう。あれも元はノートヴォルトの曲の一部だって。なんだっけな…交響組曲の…忘れた」
「なんだよー。今日のご飯なにかな」
「全然関係ないし。なんだっけなー題名。気になる」
「まだ図書館ギリギリあいてるよ。本借りたら?」
「そっか、俺もたまには借りてみよう。ほら走って! 閉まっちゃう!」
数分後、兄弟は息を切らして閉館前の図書館に滑り込み、兄は音楽史の本、弟はクラスで人気の児童文学を借りた。
兄が借りた音楽史のあるページには、こう書かれている。
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