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終曲 先生と私のピアノ・フィナーレ 2

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「…っ…先生?」

「君、答え言ってるよ。正解は君が僕に挑戦してきたあの時が忘れられなかったから」

 腕の中のコールディアを自分の方に向かせ、おでこを突き合せる。
 少し見上げるような彼女の目は、困ったような色を浮かべている。

「せんせい…」

 でも声を聞けばそれは上ずっていて、困っているのではなく、誘われているのだと思った。

「家具も食器もグラスハープもピアノも、全部君がいることを想定して置いてある・・・もし君が来てくれなければ、僕はここで死ぬまで君の幻影を思い描いていたかもしれない」

 そう言ってキスをしようとするノートヴォルトを遮る。
 明らかにむっとしたような彼の顔。

「その割に置いてったくせに…」

「根に持ってる?」

「魔力で繋がってたって明確にわかるものじゃないです…言葉だって態度だってずっと欲しかったんですから」

「そこはもう一生かけて謝罪するよ。でも僕の残りの人生全てを捧げるから、本当は許して欲しい」

「……本当は許してます…拗ねてるだけなんです…先生かっこいいから、取られちゃうって不安になってたんです…」

「それだったら君だってこんな綺麗になってしまって…ねえそろそろこの距離のまま我慢できないんだけど、キスは許してもらえるの?」

「最初から許可制じゃないです」

 僅かな距離が埋まり、唇が重なった。
 ゆっくり味わうように、柔らかな唇を食む。時々彼女から立ち上るほのかな香りが、息継ぎのたびに鼻孔をくすぐった。学生の時とは少し違う気がする。
 なんの香りかわからないけど、甘くも強くもなくスッキリしていて嫌いじゃない。
 味わっていた唇を一度離すと、首筋に顔を近づけて深呼吸でもするように息をついた。

「ん…せんせ、どうしたの?」

「君の香りと香水の香りが混ざっている」

「そういうことされるの恥ずかしいです…嫌でしたか?」

 彼はそのまま首筋にも吸い付くと、白い肌に痕を1つ付けた。

「んっ…ぁ…」

「嫌じゃない。少し興奮するけど…」

 そう言って耳をちろりと舐めると、耳朶を甘噛みした。

「あっ…」

「感じる?」

 コールディアが返事の代わりに声にならない吐息を漏らした。
 甘い痺れに立っているのが辛くて、思わず後ろに手をついたらピアノの不協和音が鳴った。

「今の君みたい…乱れてる」

「せ、先生…あの、そういうことするなら先に汗を流したいです…馬車が混んでたので…」

「そういうこと?」

 なんだっけ? とでも言うような顔でとぼけるノートヴォルトに、「その、さっきみたいな深いキスとか…」と赤くなって答える。

「あんなのまだ深くないよ。キスだけなら汗を流す必要もないんじゃない?」

「あ…キスだけじゃなくて…」

「じゃなくて?」

「その先も…」

「先?」

「先生に…も、もう、意地悪…」

 赤いまま俯いてしまった彼女に「ごめん」と言いながら笑うと、その手をひいた。
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