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第29楽章 係恋パルティータ 3

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「それで…君は? 君は何をしてるの?」

「私はちゃんと計画通り教員になりましたよ。初等部で1年間担任を受け持ちました」

「今は?」

「辞めました」

「なんで辞めちゃったの?」

「転職します」

「なにに?」

 彼女はここで質問が聞こえなかったかのように音楽堂を見渡した。

「先生、どうして自分で建てちゃったんですか?」

「ここ? 君の話を思い出して、どうせ資金もあるし自分で居場所を作るのもいいかなって…今まで全て無理に押し付けられたものの中で生きていたから、自分からやりたいことをやってみたいかな…って」

「ふーん…人の夢を横取りしておいて…。ところで先生、教員資格のある人必要じゃないですか? 見たところただ音楽教えてるだけじゃなさそうですし」

「いればありがたいかな。僕は子供に教えるのは苦手だし。君の転職ってそういうこと?」

「む…まあそんなようなもんですけど…」

「ほんとに助かるんだけど」

 彼女は何故か少し拗ねたような顔をすると「でもそれだけじゃないです…」と言った。

「先生知らないかもしれないですけど、私前に凄く好きな人いたんですよ。なんなら本当に命捧げましたから。でもその人、どっかいっちゃったんです」

「それは酷い男だね…」

「たくさん好きって伝えたのに、1回も好きって言ってくれてないんです」

「言ったけど聞こえてなかったんじゃないかな…」

「それって意味ないですよね? 私の中ではまだ1度も言われてません」

 コールディアは腕を組んで少し膨れた。

「そんな顔をしてると美人が台無しだよ。君随分綺麗になったね」

「私の好きな人はすっごく綺麗な人なんで少しでも釣り合いたくて。私まだその酷い男が忘れられないんです」

「コールディア、この回りくどい下りいる?」

「いります。私半分怒ってますから」

 そう言ってそっぽを向いてしまった彼女を、とうとうノートヴォルトが抱きしめた。
 女の子がキャーキャー言うのも気にしない。

「ごめん。眠っている君が起きなかったらと思うと…もしアフェットみたいなことになったらどうしようかと思うと会いにいけなかった。魔力が繋がっていることに胡坐をかいて逃げてしまった…本当はずっと会いたかったのに、もし目覚めてから君の気が変わっていたら…そんな悪いことばっか考えてた」

「先生馬鹿じゃないですか。魔力繋がってるんだからそんなの全部わかるでしょう」

 コールディアもノートヴォルトの背中に腕を回した。
 ずっと欲しかった温もりに包まれて、涙が出そうになるのを隠すように彼の肩に顔を埋める。
 ノートヴォルトはそんな彼女の耳元で「コールディア」と呼んだ。
 耳から伝わる痺れるような感覚に、彼女は震える声で「はい」と返した。

「こんなに待たせてごめん。僕は君がどうしようもないくらい好きだ。ずっと言えなくてごめん。好きだよコールディア。大好き」

「せんせ、やっと聞けた・・・私もずっとずっと大好きです…もうどこにも行かないで…先に傍にいてって言ったの先生だよ…」

「そうだったね。ほんとごめん」

 彼女が肩で泣いているのがわかる。
 どんなに隠しても、以前と変わらぬ声の変化はノートヴォルトにははっきりわかった。

「コールディア、さっきの転職の話なんだけど」

「うん…」

「教師もいいんだけど、もう1つ頼みたいことがあるんだ」

「なんですか…」

 ノートヴォルトは1度身を離し、彼女の涙に濡れた顔を上に向かせた。

「コールディア、僕のお嫁さんになって」

「…うん…うん、うんっ」

 コールディアの目からとめどなく涙が溢れてくる。
 泣いているのに、声はもう下がっていない。
 どちらかと言うと、彼女が照れている時のような少し上ずった声。
 進路の相談をしたときに「馬鹿げたこと」と言っていたことが、やっと今叶った。

 何度もうんと言って泣き続けるコールディアに、ノートヴォルトは優しい口づけを落とす。
 周りにいた女の子は囃し立てるかわりに、盛大な拍手を送っていた。

「コールディア、生きていてよかったと思える日が来るなんて思わなかったよ…大好きだよ、コールディア」

「うん…」

 その後ノートヴォルトはずっと泣いているコールディアを抱き上げると、きゃあきゃあ騒ぐ女の子たちに「今日はもうおしまい」と言って隣にある自宅へと消えていった。
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