学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

文字の大きさ
上 下
102 / 113
30

第29楽章 係恋パルティータ 3

しおりを挟む

「それで…君は? 君は何をしてるの?」

「私はちゃんと計画通り教員になりましたよ。初等部で1年間担任を受け持ちました」

「今は?」

「辞めました」

「なんで辞めちゃったの?」

「転職します」

「なにに?」

 彼女はここで質問が聞こえなかったかのように音楽堂を見渡した。

「先生、どうして自分で建てちゃったんですか?」

「ここ? 君の話を思い出して、どうせ資金もあるし自分で居場所を作るのもいいかなって…今まで全て無理に押し付けられたものの中で生きていたから、自分からやりたいことをやってみたいかな…って」

「ふーん…人の夢を横取りしておいて…。ところで先生、教員資格のある人必要じゃないですか? 見たところただ音楽教えてるだけじゃなさそうですし」

「いればありがたいかな。僕は子供に教えるのは苦手だし。君の転職ってそういうこと?」

「む…まあそんなようなもんですけど…」

「ほんとに助かるんだけど」

 彼女は何故か少し拗ねたような顔をすると「でもそれだけじゃないです…」と言った。

「先生知らないかもしれないですけど、私前に凄く好きな人いたんですよ。なんなら本当に命捧げましたから。でもその人、どっかいっちゃったんです」

「それは酷い男だね…」

「たくさん好きって伝えたのに、1回も好きって言ってくれてないんです」

「言ったけど聞こえてなかったんじゃないかな…」

「それって意味ないですよね? 私の中ではまだ1度も言われてません」

 コールディアは腕を組んで少し膨れた。

「そんな顔をしてると美人が台無しだよ。君随分綺麗になったね」

「私の好きな人はすっごく綺麗な人なんで少しでも釣り合いたくて。私まだその酷い男が忘れられないんです」

「コールディア、この回りくどい下りいる?」

「いります。私半分怒ってますから」

 そう言ってそっぽを向いてしまった彼女を、とうとうノートヴォルトが抱きしめた。
 女の子がキャーキャー言うのも気にしない。

「ごめん。眠っている君が起きなかったらと思うと…もしアフェットみたいなことになったらどうしようかと思うと会いにいけなかった。魔力が繋がっていることに胡坐をかいて逃げてしまった…本当はずっと会いたかったのに、もし目覚めてから君の気が変わっていたら…そんな悪いことばっか考えてた」

「先生馬鹿じゃないですか。魔力繋がってるんだからそんなの全部わかるでしょう」

 コールディアもノートヴォルトの背中に腕を回した。
 ずっと欲しかった温もりに包まれて、涙が出そうになるのを隠すように彼の肩に顔を埋める。
 ノートヴォルトはそんな彼女の耳元で「コールディア」と呼んだ。
 耳から伝わる痺れるような感覚に、彼女は震える声で「はい」と返した。

「こんなに待たせてごめん。僕は君がどうしようもないくらい好きだ。ずっと言えなくてごめん。好きだよコールディア。大好き」

「せんせ、やっと聞けた・・・私もずっとずっと大好きです…もうどこにも行かないで…先に傍にいてって言ったの先生だよ…」

「そうだったね。ほんとごめん」

 彼女が肩で泣いているのがわかる。
 どんなに隠しても、以前と変わらぬ声の変化はノートヴォルトにははっきりわかった。

「コールディア、さっきの転職の話なんだけど」

「うん…」

「教師もいいんだけど、もう1つ頼みたいことがあるんだ」

「なんですか…」

 ノートヴォルトは1度身を離し、彼女の涙に濡れた顔を上に向かせた。

「コールディア、僕のお嫁さんになって」

「…うん…うん、うんっ」

 コールディアの目からとめどなく涙が溢れてくる。
 泣いているのに、声はもう下がっていない。
 どちらかと言うと、彼女が照れている時のような少し上ずった声。
 進路の相談をしたときに「馬鹿げたこと」と言っていたことが、やっと今叶った。

 何度もうんと言って泣き続けるコールディアに、ノートヴォルトは優しい口づけを落とす。
 周りにいた女の子は囃し立てるかわりに、盛大な拍手を送っていた。

「コールディア、生きていてよかったと思える日が来るなんて思わなかったよ…大好きだよ、コールディア」

「うん…」

 その後ノートヴォルトはずっと泣いているコールディアを抱き上げると、きゃあきゃあ騒ぐ女の子たちに「今日はもうおしまい」と言って隣にある自宅へと消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

先生と私。

狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。 3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが… 全編甘々を予定しております。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

密事 〜放課後の秘め事〜

月城 依織
恋愛
放課後の数学科準備室。 ずっと『先生と生徒』として、彼の補習を真面目に受けていただけなのに。 高校卒業まであと僅かだという、1月下旬のある日。 私は先生と、一線を越えてしまった。 それから先生とは何もないまま高校を卒業し、大学で教職を取った。県立高校の教員として採用され、楽しく充実した人生を送っていたのに……。 高校を卒業して7年後、私が勤務する学校に、あの時の数学の先生が異動してきた────。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...