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第27楽章 Mein Vater, der Erlkönig 8

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「コールディア…目を開けるんだ。コールディア…」

 その場に寝かせ、魔力の残量を確認していく。
 正確な数値はわからないが、彼には大体の目安がわかった。
 それはもう、風前の灯火と言える。

「コールディア、まだ君に応えていない…目を開けてくれ…聞いてくれ…」

 まるで失血でもしたかのように真っ白になった彼女は、微動だにしない。
 呼吸もしているのかわからないほど浅く、脈拍は弱い。

「コールディア、今助けるから…あと少しだけ頑張って」

 そしてノートヴォルトは立ち上がると、周囲の学生に言った。

「誰か。魔法陣用のチョークを持ってない…なけりゃなんでもいい、描けるものを」

 後ろの方で成り行きを見ていた魔術師学科の男子学生が、「持ってます!」と言って彼に差し出した。
 ノートヴォルトが「下がって」と言うと空間が広がり、地面に大急ぎで魔法陣が描かれる。
 どんな地面でも関係なく陣を描くことができる専用のチョークは、あっという間に学生が見たこともない複雑な魔法陣を完成させた。
 だが魔術師学科の教授ともなれば知っている。

「これは…魂の禁呪?」

「禁忌でもなんでも犯してやる。僕は彼女を助ける」

 精神の死を待つコールディアをその円陣の中央に横たえると、爪先に魔力を流しナイフのような切れ味にする。
 そして自分の手のひらを切りつけると、コールディアの手にも同じことをした。
 
血の流れる互いの手を繋ぎ、儀式が始まる。

「我は魂の儀式を行う者。魔力を失い死を待つ者に再び命を取り戻す者。血によって魂は結び付き、我の魂は彼の者に共有される。魂の契約、すなわち我の魔力は死によって終わりを迎えるまで彼の者、コールディア・カデンツァに分け与えられる。アルミヌス・アフィナシオ・ノートヴォルト・ショスタークの名の元、今この瞬間を以って契約は効力を発揮する。契約締結フィルマントゥル

 魔法陣が光りを帯びる。
 血のように赤黒い光を発した後、ノートヴォルトが手を繋いだままその場に崩れた。

「教授っ!」

 学生たちが見守る中、ノートヴォルトは薄れる意識でただコールディアだけを見つめていた。

「コールディア…生きて…僕は君が好きなんだ。声だけじゃない、全部…こんな僕を丸ごと受け入れてくれた君が好きなんだ…もっと早くに言えばよかった」

 少しだけ彼女に血色が戻ったような気がする。
 それと反比例するように、ノートヴォルトは青くなっていった。
 彼女に言葉を届けたくても、その声も掠れてしまう。
 それでも彼は囁くほどの声で続ける。

「コールディア、聞こえる? 僕は自分に流れる父の血が憎くて、怖かった…でもこれは僕の一部なんだ…父が死んだって消えるものではない。…でもね、そんなことどうでもよくなるくらい君が愛しくなってしまった…」

 動きの悪い体で這い、少しでもコールディアに近づく。

「コールディア、起きて…ちゃんと好きって言わせて…コールディア…………」

キンッ キンッ キンッ キンッ キンッ

 いつの間にか5個も壊れていたらしい結界が戻る音がした。

 学生が見守る魔法陣の真ん中には、傷ついた魔術師と、彼に命を捧げようとした少女が寄り添うように横たわっていた。

 未だ目覚めぬコールディアと、意識を失ってしまったノートヴォルト。
 だが彼は暗がりに意識が落ちる寸前、その手がほんの少しだけ握り返されたことに気づいていた。
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