学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

文字の大きさ
上 下
94 / 113
28

第27楽章 Mein Vater, der Erlkönig 4

しおりを挟む

「なんのために僕がいるんだ…お前が作った兵器をなんで使わないんだ! 僕がどれほどお前を憎んだって、レニーの、フリーシャの家族であることに変わらないことくらい分かっている! お前みたいな独りよがりの馬鹿がいるから“魔王”が発生してしまうんだ!!」

 取り込まれていく実父は何も答えない。
 もう答える自我などない。

「…父上…父上…父上…」

 ノートヴォルトの横にうずくまるレングラントが、何度も悔しそうに呼んだ。

「アフィ、君の所有権が今私に移った…」

「……」

 ノートヴォルトの体に刻まれた所有者の刻印。
 それはショスターク家とマエスティン家のもの。
 レングラントは既に後継者としてヴァルキンに指名されている。
 その所有権は譲渡の意志か、所有者の死によって自動的に移る。

 つまり、今この瞬間、取り込まれたヴァルキンの精神は死んだ。
 あとは体がマギア・カルマを取り込み続け、ひたすら肥大化した後“魔王”となる。

 ヴァルキンだったモノはぶるぶると震え、ぶくぶくと肥大化を開始した。
 叫びとも嘆きともわからない声が上がり、耳を塞ぎたくなる。

「レニー・・・今君の父の体を解放してくる…」

 ノートヴォルトがアポカリプスを起動する。

「使用者認識…アームズコード:ノウェム兵器の子アルミヌス・アフィナシオ・ノートヴォルト・ショスターク。深層魔力イドサフィルス・デンテ

 ローブが白く光る。

「死にたくなければ下がるんだ! あれが“魔王”…皆下がれ!」

「グォアアアアアア」

 ノートヴォルトが後ろの学生たちに叫ぶと、“魔王”と成り果てたヴァルキンだったモノも叫んだ。

「何をしてる!? 下がれ! 動ける者はいないのか!?」

 彼の周囲にいる残された学生、教授、魔術師のいずれもすぐに動く気配がない。
 “魔王”に取り込まれるまで大量に沸いていた魔物に対処するため、皆限界まで戦ってしまったのだ。

「アフィ、私が…」

「君は動くな! 幻虹のヴェールイルジオ・ヴェルム! さあ防護壁の中に!」

 ノートヴォルトがレングラントの周囲に防御壁を張ると、近くでうずくまる魔術師の1人に駆け寄る。そしてすぐさま回復の古典魔術をかける。

聖母のヴィルジニス抱擁・アンプレ! 動ける!?」

「はい・・・」

「全員ここに避難させて。回復できる者は回復して、レニーを守って」

 回復させた魔術師が動くのを見届けると同時に、彼は魔力を纏わせた左手を振り払った。
 完全に“魔王”と化したヴァルキンが放ったマギア・カルマのエネルギーが、放った本人に跳ね返されるとそのまままた吸収された。

「今相手にしてやる・・・」

 救出された学生や教授らが次々と防御壁の中に連れてこられる中、ノートヴォルトは彼らを巻き込んで攻撃してくる“魔王”の気を引く。
 保護された学生たちは防御壁の中でぐったりしたまま、音楽教授だったはずのノートヴォルトの戦いを見守るしかなかった。
 その中には、あの日図書館前で彼を馬鹿にし攻撃をしかけた学生もいる。そして、ストラヴィス教授も。

「俺たちの知ってる教授じゃない…」

「何が起きてるんだ…」

「彼は・・・彼はまさか、隠された魔術師なのか…“兵器”は実在したのか…」

 少し遠くになったノートヴォルトと、もう過去のものだと思っていた“魔王”を見て、学生と教授たちは恐怖と同時に困惑する。
 残った魔術師たちもなんとか防御壁の中に集まったが、傷ついた上にもう魔力はほとんど残らず、指一本動かすのも苦痛に思える状態。
 最初にノートヴォルトに回復された魔術師も集まった彼らに辛うじて体力回復の魔法だけかけると、荒い呼吸のままへたり込んだ。

 下手なことをすれば、“兵器”の邪魔になってしまう。
 誰もがもうノートヴォルトの力に頼る他ない状態だった。

 ノートヴォルトが飛んでくる“魔王”の攻撃を避けつつ、反撃のチャンスを伺う。
 レングラントは防御壁の中、唇を噛みしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

一緒に召喚された私のお母さんは異世界で「女」になりました。【ざまぁ追加】

白滝春菊
恋愛
少女が異世界に母親同伴で召喚されて聖女になった。 聖女にされた少女は異世界の騎士に片思いをしたが、彼に母親の守りを頼んで浄化の旅を終えると母親と騎士の仲は進展していて…… 母親視点でその後の話を追加しました。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

悪役令嬢(濡れ衣)は怒ったお兄ちゃんが一番怖い

下菊みこと
恋愛
お兄ちゃん大暴走。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...