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第22楽章 応えたい

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「コールディア、進路は決まりましたの?」

 春休み明けの初日、恒例の学院長の眠い話を背景に、隣りのフレウティーヌがこそこそ話しかけて来た。

「うん、私教員資格取る」

「え…奏者ではないんですの?」

「最初はそうだったんだけど、目標が変わってしまって」

 いつの間にか学院長の話が終わり、周りに合わせて拍手をする。

「それは…コールディアの大事な人に関係ありますの?」

「ありありだよ、大有り。ここでは話せないけどね」

 近くの教授に睨まれた気がして、2人はぱっと離れると前を向いた。

 魔術師学科の教授、ストラヴィス教授が前に出てくると、いつもとは違った雰囲気の話が始まった。

「諸君も知っての通り、近頃はマギア・カルマの活動が活発化してきている。ここ王立魔術学院の性質は当然君たちも知っているだろう。150年近く続いた平和だが、もしかしたら1つの危機を迎えるかもしれない。今年度は、予定を変更して魔術系の授業を増やすことになった。学科に関係なく他人事ではないこの事態に、真面目に取り組むことを期待する」

 そう説明すると、去って行く。
 誰も拍手などせず、学生たちの空気は騒然となった。

 コールディアたちの2年目は、こうして不穏な始まりを迎えた。

 この翌日、学生たちは受講講座と進路の計画表を学院に提出した。
 本来なら春休み前には決定しているものだが、事前通達で進級時に行われると発表されていた。
 理由は、昨日ストラヴィス教授が話したように、大幅にカリキュラムが変更されたため。
 コールディアは春休み中も悩んでいたので、かえって好都合だとは思ったのだが。

 夜には教授たちが会議をして、3日後には時間割が発表される。
 きっと嫌そうに会議室に座っているであろうノートヴォルトを想像すると、気の毒とは思いつつもちょっと笑えた。
 それまで学院は休講となる。

 コールディアはノートヴォルトに会いたくて、部屋に行く理由を探した。授業もないし助手の仕事も当然ない。
 “会いたいから”が理由になるとは思えなかった。

(あ、進路報告はしてもいいよね。相談したし、理由だよね)

 これは必要ということにすると、部屋をノックした。

「なに?」

 恐らく夜の会議で使うであろう資料に埋もれたノートヴォルトは、既にうんざりした顔でコールディアを迎えた。

「進路の紙、出して来たので報告でもしようかなーと」

「そう言えばいつの間に決めたの?」

「フリーシャ様とお話ししてる時に」

「へぇ…どんな話でそうなったの?」

「先生の話です」

 ノートヴォルトが眉を潜める。

「それって僕のこと? それとも一般的な教師の話?」

「ノートヴォルト教授の話と、教員資格の話です」

「君教師になるの?」

「変な感じですよね。私でもなれるのかな? って思いますけど。でももうそれで出してしまいました」

「なれるんじゃない。きちんと勉強すれば資格くらい誰でも取れるから。急にそう決めた理由が気になるけど」

 散らばった資料を確認し、順番を整えるのに苦戦しているノートヴォルトは、顔も上げずにそう言った。

 コールディアがずっと黙っているのでやっと顔を上げると、見たことのない真剣な表情で自分を見ている彼女がいた。

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