学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

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第21楽章 先生の居場所 3

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「魔力が高いと、戦い方が変わるんですか?」

「前に1度結界が破れた時、レニーお兄様と共闘したと聞いたわ。その時の戦い方はあなたの見た目に違いはなかったはずよ」

「凄い戦いでしたけど、レングラント様と同じに見えました」

「…外での討伐の時にはね、特殊な装備をするの。“兵器”用にカスタマイズされた、マギアフルイドを使った装置…魔力増殖炉のうんと小型とでも思ってもらっていいわ」

 ただでさえ魔力が強いというのなら、さらに強くしたらどうなるのだろう。
 増殖と聞くと、コールディアには無理に引き上げているような怖いイメージになってしまう。そんなものを装備するなんて、ノートヴォルトの体は大丈夫なのだろうか。

「お兄様の体への負荷は当然あると思うわ。本人は何も言わないけれど、魔力が高くなければ耐えられないというのがその証拠だと思うの。現にレニーお兄様は1度も装備したことはないわ。お父様も」

「元々高いのに、さらに上げてどうするんですか?」

「効率よ。とても効率がいいの。1人で宮廷魔術師10人近くの魔力まで高められるわ。…もっとかしら? 元々対“魔王”対策でできたものだから」

 “魔王”。それは概念の1つで、実体があるものではない。
 生き物を魔物へと変化させてしまう高マギア・カルマの集合体。
 意志を持っているかのように高魔力に引き付けられ、大きく膨れると周囲を次々飲み込んでいく。

「なぜ“魔王”かわかる?」

「いいえ…」

「その昔取り込まれた大魔術師が、周囲の国々に壊滅的な被害を出したの。人の形をしたマギア・カルマは、ただのエネルギーの集合体より遥かに恐ろしかった。元々魔術に長けた人間だったから、その威力はすさまじいものだったと聞くわ。人の形をしたマギア・カルマ、だから魔王。歴史の授業では“発生した魔王により壊滅的な被害が出た”としか習わないけど」

「じゃあもし“魔王”が発生したら…もし古来と同じことが起きたら…」

「立ち向かうのはアフィお兄様よ」

 戦うためにあるのではないと言ったノートヴォルトの魔力。
 音楽が好きで、ピアノが弾きたかっただけなのに、それらに触れるために努力したことが結果的に彼の魔力を底上げし、兵器に仕立て上げられてしまったのかもしれない。

「それは…先生が取り込まれる可能性は…」

 口にしていて恐ろしくなり、語尾が消えてしまった。

「あるけど、ないわ。増殖装置は、取り込みを感知すると同時に使用者の命を停止させるから」

 ポタ、っとコールディアの瞳から涙が落ちた。
 テーブルクロスの薄いグリーンが、濃いグリーンに変わっていく。

「そんなの、あんまりじゃないですか。音楽がしたかっただけなのに、兵器にされて、死ぬかもしれない闘いに送り出され、命を削りながら戦うのに、同時に処刑道具だなんて。あんまりじゃないですか」

「そうよ…あんまりよ。私やレニーお兄様と母が違っただけで、アフィお兄様は大きく運命を変えられてしまったの。あんまりだわ。あんまりよ…」

 コールディアは涙を浮かべた顔を上げた。
 感情的になってしまったが、出生に関係なく支え合ってきた兄妹。
 コールディアの何倍も苦しんでいるはずだ。

 綺麗な顔を歪め唇を噛みしめているフリーシャは、あの快活なお喋りをする姿からはかけ離れた表情をしている。
 後悔、憤り、無念さ…そんなものが彼女の中にも渦巻いているのだろう。

「フリーシャ様…ごめんなさい…」

「ううん。いいの。私こそごめんなさい。もっと楽しいお喋りをしたくて誘ったのに、ちょっと重たい話をしすぎてしまったわ」

「いいえ。話してくれてありがとうございます。私進路に悩んでいたんですけど、お陰で少し見えてきました」

 ノートヴォルトの運命と、彼女の進路。どんな関係があるのか思い浮かばず、フリーシャが「それは?」と聞く。

「この先先生がどんなことになっても、帰って来られる場所、居心地のいい場所を作っておきたいんです。先生は学院は檻であり居場所だって言ってました。そして音楽教授という仕事も案外気に入ってるって。だから、どんなことがあっても先生が先生でいられる場所を作っておきたいんです」

 ただの恋する乙女とは違う、決意の籠った眼差しに、フリーシャは黙って頷く。

「私、学校の先生になろうと思います。先生が学院教授として残り続けるなら補佐もできるし、もし去ることになっても、彼が音楽に携わり続けられる施設があればいいかなって。学校でも音楽教室でも、私頑張って建てちゃいますよ!」

 コールディアの無謀とも言える宣言に、フリーシャは小さく笑ったあとに涙を浮かべて礼を言った。

 何度もありがとうと繰り返し、そして最後に「お兄様を守って」と付け加えた。
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