学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

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第21楽章 先生の居場所 2

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「なんてこと…実質お兄様のプレゼントですの!?」

「そうですね…」

 フリーシャがコールディアの上から下までを見る。
 庶民の服装としてはいささか装飾的だけども、貴族の令嬢には匹敵しない。
 かと言って礼儀を欠くことはなく、もうすぐ17歳という彼女の若さにもちょうどいい。
 ややボリュームのあるスカートは淡いピンク。以前貰ったハンカチと同じで、コールディアが好む色だ。裾から覗くペチコートはフリルが多く寄せられていて、さり気ないお洒落ポイントをアピールしている。

 ウェストベルトは濃い茶色で、素材は少し固めの布地。最早旧時代のものとなったコルセットのような締め付け感はないが、細かな刺繍は適度にフォーマル感を出している
 スカートと揃いのジャケットは短めで、流行の形。
 中に着たブラウスはジャケットの袖からレースをちらりと見せて高級感を醸し出しており、裕福な商人の娘くらいの服装だろう。

 これをノートヴォルトが選んだのだろうか。

「2択で質問されて…こっちとこっちならどっち? みたいに。それで完成したのがこの服です」

「どうして? どうしてお兄様が流行りの形をご存じなの!?」

 思えば彼は店員に細かに要望を伝えていた気がする。
 2択で店員に持ってこられた服はどれもコールディアの好む傾向のあるものばかりだった。
 それを思い出すと、彼はコールディアが思う以上に彼女のことを見ており、知っているのではないだろうか。

「ねえ、私お兄様から肝心な話は聞けていないのよ。もしかしてコールディアはお兄様の恋人ではないの!?」

 コールディアの脳裏に数日前のノートヴォルトとの濃密な時間が蘇る。
 あんなことをするのは、普通は恋人同士かもしれない。
 でも自分たちの関係性はそれは当てはまらない。
 顔を真っ赤にしたまま、うまく答えられないでいた。

「そんなに赤くなるということは、間違いないのね。そう、あのお兄様が…誰も愛さないと宣言なさってたお兄様が!」

 フリーシャが勝手に盛り上がってしまう。
 誤解は解いた方がいいのだろうか。

「フリーシャ様、先生はそう言ってました」

「そう?」

「そうです」

「そうって?」

「だから誰も愛さないと」

「え? 待って、あなたはお兄様をどう思っているの?」

「大好きです」

「お兄様はなんと?」

「応えられないし、愛される資格もなければ愛する資格もないそうです」

 フリーシャはいつぞやフレウティーヌがしたように、大袈裟に「ああっ」と言って額に手を当てた。
 貴族は皆こうなのだろうか。

「お兄様、相変わらずそんなことをおっしゃってるのね…不憫、コールディアが不憫よっ」

「私はいいんです。勿論受け入れてもらえたらそんな嬉しいことはないですけど、どんな形でもいいから、先生の傍にいれたらなって。私が言うのはおこがましいかもしれないけど、支えになれないかなって…私の人生なんて、先生に比べたらイージーモードすぎますけど…」

「同じ重さの人生を経験したからと言って、良きパートナーになるわけではないわ。お兄様はきっとあなたの傍の居心地がいいのよ。でも、お父様のことがあるでしょう? それに、仕事や呪縛のことも。それらが邪魔して、想いのままにあなたに感情を向けられないんだわ…お父様のことも、酷く憎んでいるから…」

 しばらくテーブルに沈黙が落ち、雨のようなフリーシャの言葉も止んだ。

「お茶のお代わりはいかが? 好みはあるかしら?」

 少ししてから、冷めたお茶を前にフリーシャがそう聞いた。
 この人に遠慮をするのは意味がないんだろうなと思ったコールディアは、以前1度だけ飲んだローズティーを飲んでみたいと思った。

「すごく香りがよくて、味が甘いわけじゃないのに甘く感じたんです」

 そうコールディアが言うと、彼女は店員を呼んだ。

「ローズティーをお願いするわ。ローズはどこのローズかしら?」

「ガルリア産の朝摘みの薔薇のみ使用しております」

「まあ素敵。じゃあそれをお願いね」

「かしこまりました」

 お茶にする薔薇にも種類があるのかと感心していると、給仕がティーポットと砂時計を置いて去って行った。
 既に薔薇の香りが漂っている。

「フリーシャ様、私、先生の助けにはなりたいんですけど、先生がどんなことをしているのかまではよくわからなくて。一体現場ではどんな動きをしているのかなって…もし差し支えなければ、何か教えていただけませんか? ただ待っているだけっていうのが、怖くて仕方ないんです」

 砂時計が落ち切り、フリーシャが2人のティーカップにお茶を注いだ。
 どんな動きでも綺麗で、カップから漂う香りを感じながら思わずフリーシャの所作を眺めてしまう。

「…そうよね。何も知らないのは嫌よね…。私も前線にいるわけではないから詳細を説明はできないけれど…。少なくとも、レニーお兄様ら宮廷魔術師とアフィお兄様は全く別の戦い方よ」

「別? 魔法に別とかあるんですか?」

「魔法は同じよ。あなた達も使う現代魔術と、古典魔術。前にマギアフルイドの色の話をしたわよね? あの色、赤が一番上と言ったけど、グラス程度の量だと赤まで達してしまうとそれ以上の差異はわからないの。実際はアフィお兄様の方が何倍も魔力があるのだけど」

 話の内容が気になり、せっかく頼んだローズティーも冷めていく。
 フリーシャに「お飲みになって?」と言われ、乾いた口を潤わせたが、正直味を楽しむ気分ではなくなっていた。
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