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第21楽章 先生の居場所
しおりを挟む春休みも今日で終わりという日、コールディアは緊張の中貴族御用達の高級カフェに来ていた。
目の前の品のいいお洒落をした美しいご令嬢は、にこにこしながら優雅にお茶を飲んでいる。
「そんなに緊張なさらないで」
そうは言われても、彼女の貴族との接点と言ったら学院くらい。
庶民も少ないとは言え存在し、貴族とは言え気の知れた友人と過ごす学院とは大違いの場。
ここに出向く服すら持っていなかったため、彼女はこの令嬢の誘いを受けてから慌てて少し見栄えのいい服を揃えた。主にノートヴォルトが。
「あの、フリーシャ様、お話しとは…」
目の前の令嬢はノートヴォルトの異母妹、フリーシャ。
コールディアと話がしてみたかったらしく、ノートヴォルトを通して招待を受けたのだ。
「もう、そんな固くならないで? 私あわよくばあなたとお友達になれたらいいのにって思ってるんだから。だってあのアフィお兄様が他人の話なんてしたことないのに、あなたの話題だけはちょっとだけ出てくるのよ。気になって仕方ないわ!」
フリーシャは学校の友達並にお喋りだ。
前にノートヴォルトの家に来た時も思ったが、その矢継ぎ早にされるお喋りは、メトロノームがカチカチとプレストの速さで動くのを思い起こさせる。
ノートヴォルトが言うにはそれはプライベートで油断をしている時で、宮廷魔術師として働いている時はそうでもないとか。
想像が出来ない。
「私の話なんてするんですか?」
コールディアの方も意外だった。
それに、コールディアはコールディアで聞きたいこともある。
ノートヴォルトに直接聞けないけど、彼の“兵器”についての話はもう少し詳しく聞いてみたいと思っていたのだ。
実態がわからなすぎて、ふと学院から姿を消した時のことを思い出すと不安で仕方ない。
「まあ戦いに出てしまうと凄く気が立ってるから、そんなお話しどころではなくなってしまうのだけど。ああでも戻って来て鎮静魔法をかけると、ポツポツあなたの話をするのよ。でも確信に触れるところは話さないのよね。気になって仕方ないわ」
1度の会話に早口で詰め込んで話すと、また優雅にお茶を飲んだ。
コールディアもせっかくなので、出来るだけ上品になるようにお茶を飲んでみる。
「おいしい…このフレーバーはなんですか?」
「これはラズベリーとピーチの香りね。ピーチの香りのあとにラズベリーの風味が残るのが好きなの。茶葉はビルー産のものよ。癖がないからフレーバーティーに馴染むの。濃い目に入れてミルクを足すのもお勧めよ。あ、お土産に持って行くといいわ。アフィお兄様にも飲ませてあげて。私が置いてっても絶対未開封なんですもの。ねえちょっと、こちらの茶葉をお土産にしたいのだけど」
言うだけ言うと店員を呼び、お土産にするよう頼んでいる。
遠慮するなどという行為を挟む暇もない。
「あ、ありがとうございます…。あの、それでお話しは」
「あらごめんなさい。別にこれと言ってお話しがあったわけじゃないの。お喋りがしたかっただけ」
「じゃあ本当にただカフェでお茶をするだけだったんですか?」
「そうよ。いけないかしら?」
「いえ、嬉しいですけど、こんな高級な店に縁がなくてびっくりしてしまって…服もなくて慌てていたら、先生が買ってくれました…」
「まあ! ではその服はお兄様が選んだの?」
「そういうことになるのかな…」
招待状と言うほどではないが誘いのカードを渡された日、内容にもびっくりしたが服がないことに気づき青ざめた。
いくらノートヴォルトに雇ってもらいお金がそこそこ入るようになったとは言え、貴族御用達の店に出向くほどの服を揃えるとなるとかなりの経済的ダメージとなる。
手持ちと合わせてなんとか誤魔化せないか思案していると、「僕が買うから」と言われ、どんな服装が適切かもわからない彼女に「じゃあこれ」と選んでもらったのが今の服なのだ。
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