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第19楽章 先生、気持ちいい…
しおりを挟む「あれ? 先生、次って講義ありましたっけ?」
「何言ってるの。次は僕の一番嫌いな時間じゃないか」
次が空き時間のコールディアは、課題をノートヴォルトに提出してから自習室に向かおうと、彼の部屋を訪ねていた。
珍しくいそいそと授業の準備をしているので、何事かと思ったのだ。
「そっか、今日でしたか。頑張って下さいね」
「助手も来る?」
「え、いいんですか? 中等部って懐かしいんですけど」
「別に助手ならいいんじゃない?」
「わー、1度先生の先生な所見て見たかったんですよね」
「いつもと変わらないけど…」
「そうかな? だって相手は11歳のお子さまですよ。昨日までおてて繋いでお遊戯みたいな歳じゃないですか」
「君もあまり変わらないだろう…」
コールディアは急いでついていく支度をしながら「そう言えば」と何か思い出した。
「先生って、子供の頃どうして金髪だったんですか? すっごい見てみたいですけど」
「学院にはレニーもいたんだ。このままでいたら一目で誰の血筋かばれてしまうだろ…在学中は幻惑術をかけられていた」
「今そのままで誰にもばれてませんよね?」
「普段の僕と繋がる者なんていないよ…黒髪も珍しいだけでいないわけじゃないしね」
「先生かっこいいのに誰も気づかないとかもったいない。ま、私だけ知ってるってのもいいんですけど!」
彼女の独占欲とも言える発言にノートヴォルトは複雑な表情を浮かべるも、急いで支度を整えていて気づかない。
日常生活の中で、彼女は度々ノートヴォルトの心を乱していることはわからないようだった。
広場を突っ切り、中、高等部の寮を抜けると、その先に中等部の教室が見えてくる。
コールディアは久々のその光景を懐かしんだ。
同じ敷地なのでいつでも来れるのだが、卒業後用もないのに来る者はまずいない。
チャイムと同時に特別授業の行われるホールに辿り着くと、がやがや好き勝手に騒ぐ生徒たちがいた。
ノートヴォルトが到着したことで教師が静かにするよう注意する。
ノートヴォルトは教壇に、コールディアは壁際に立って見学した。
彼が胸の拡声ブローチを作動させると、コールディアも習ったことのある学年主任が生徒に声を張り上げた。こちらは肉声だ。
「今日の授業は“魔奏とコモン”について学院からノートヴォルト教授がいらっしゃいました。毎回言いますけどテストがありますからきちんと聞くように。では教授、お願いします」
「資料は手元の通り…前より見やすくなっていると思う…今日は助手も見学させてもらうのでよろしく…」
壁際のコールディアはまさか紹介されるとは思わなくて、慌ててペコりと頭を下げた。
「君助手なんてしてるの」
そうこっそり話しかけて来たのは、かつての音楽教師。
当時グラスハープを弾きたくて、彼にも随分世話になった。
「はい。ちょっと生活費に難がありまして…せん…教授が雇ってくれました」
「へぇ…彼他人を傍に置くとは思わなかったな」
「わかります」
「この資料、君が手伝ったの?」
「はい、勿論教授に確認してもらってますけど」
「へぇ…よくできてるね。ノートヴォルト教授のは子供にはちょっと難しかったからね」
「やっぱり」
ノートヴォルトのぼそぼそとした授業は続く。
魔律は魔法を使う上でも密接に関わることがあるので、魔術師学科がどんなに軽視ししようとも音楽の授業は重要視されることがある。
楽器を奏でることではなく、理論等座学の方だが。
学院からの招待教授が行う受業は、その座学の専門知識だった。
ノートヴォルトからすれば、「ピアノだったらいくらでもやるのに」だそうだ。
中等部には少々難解な説明が続き、欠伸をしている生徒には同情が沸く。
(わかる、わかるよ。今でも眠くなるもん。教える本人にやる気ないし)
約40分程度の授業は、生徒たちの気力を著しく奪った上で終了した。
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