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第18楽章 音楽教授の苦悩 2

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 休み明け、学院にいつもの日常が戻る。
 3か月ほど姿を消したノートヴォルトの講義も再開され、受講する者や演奏指導を受けている者は喜んだ。

 ノートヴォルトとの関係性に名前をつけるのは難しかったが、やはり“教授とその教え子”からは変わらない気がする。
 時々彼はふらっと数日間学院から消えることがあり、帰って来るとコールディアに甘えるようにキスを求めることがあったが、それ以上発展することはなかった。
 必ず許可を取り、最後にごめんと謝るけど、そんなものいらないのにと彼女は思っていた。

 彼が嫌がっていた中等部と高等部の特別授業の資料は、時折消えることによって滞りがちになる。

「そういうのは助手にやらせておけばいいんですよ」

 そうコールディアは明るく言い、授業内容に沿った本を探しては資料の下書きを作った。
 戻って来たノートヴォルトが中味を確認し、必要に応じて加筆修正する。
 だが大抵の場合は「よくできている」という高評価が貰え、彼女は喜んだ。

 後期ももうすぐ終わりという頃、またノートヴォルトが消えた。
 彼女も学年最後のテストが控えているが、まだテスト期間ではない。
 自分の勉強の傍ら図書館へ足を運ぶと、中等部向けの本を探した。

「えーと…これはちょっと難しいか。中等部ってどれくらいの内容だったっけな…司書に相談しようかな」

 彼女が今探している本は中等部の音楽の授業用の“魔奏とコモンの違い”についてだった。
 自分もやったなーと思うも、中学部のレベルがどの程度か忘れつつあり、先生の部屋から音楽の教科書を持って来ればよかったな、と思いながら優しい内容の本を探す。

 やっと良さそうな本を数冊見つけると、内容を確認するためにデスクに向かった。

 しかし、空いている席に座ろうとした時にドン、と鞄が置かれた。

「悪いな、ここは俺が使ってるんだ」

「そう」

 それ以上は無視して、隣りのデスクに向かう。
 だが棚から突然伸ばされた足に引っ掛けられ、転びそうになった彼女は手にした本をばら撒いてしまった。
 何するのよ、と言いたくなるが、魔術師学科の連中を相手にしても仕方ない。無視するのが1番手っ取り早いのだ。

 落ちた本を拾い集めていると、いつの間にか数人に囲まれていた。

「お前魔奏科のやつだろ? なんで最近こっちによく来るんだよ」

「図書館は誰のものでもないはずだけど」

「馬鹿だな、見てわからないのか? 魔術学部に併設されている造りを見ればわかるだろ。お前ら芸術家気取りのやつがうろうろするのは目障りなんだよ」

 相変わらず馬鹿な連中だなと思う。
 夏休み中にノートヴォルトと共に来た時もそうだし、それ以外でも何かと魔術学部の学生は芸術系を馬鹿にしてくる。
 他の学部も嫌がらせを受けることがあるので、自分だけではないのだが。

(ほんと、こんなのがどうやってレングラント様と一緒に戦うのかしら。燃料プールに落ちちゃえ)

「なら本を借りたらすぐ出て行くからどいて」

「“魔律のしくみ”…なんだこれお前中等部か? もしもし~脳みそ入ってますか~」

 背の高い1人がコールディアの頭をつっつく。他の学生が変な声で「はいってないでちゅー」と言うと、周りがどっと笑った。

「やめて」

「あれ、こいつ庶民のくせしてリボンだけは高級品じゃないか。お前この店が王室御用達って知ってる? お前みたいなやつがつけてていい代物じゃないの。わかる?」

 コールディアの後ろにいた学生が、それを聞いて彼女の髪に手を伸ばした。
 しゅるっと解かれ、後ろで1つに結っていた三つ編みが肩に広がった。
 ノートヴォルトの瞳と同じ色のリボンが、卑劣な男子学生の手の中でひらひらしている。

「やめて! 返して!」

「おーおー、庶民はがめついねえ。手持ちが心許なくなったら質にでも入れるんだろ?」

「返して! それは大事なものなの!」

 先ほど変な声を出した学生が、また変な声で「だいじなものなの!」と大袈裟に真似をすると、また笑いが起こった。

 自分よりずっと高い位置にあるリボンを取り返そうとするも、全く届かない。
 悔しくて涙が滲むけど、唇を噛んで我慢する。

「気に喰わないのならもう来ないからそれだけは返して…」

「じゃあ物々交換してやるよ。お前のその安物臭い服と、このリボン」

「酷い…」

 周りを囲む男子学生がニヤニヤしている。

 こいつらだって貴族のはずなのに、なんでこうも馬鹿で下品な連中ばかりなの。

 そう思うも、彼女には対抗手段がない。
 困り果てた時、「やめなさい」という声が聞こえた。
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