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第16楽章 残響 3
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「来た…ねえ教授って戦えるの? いつも訓練にいないのに!?」
ラッピーとフレウティーヌが心配そうにノートヴォルトとコールディアを交互に見た。
いつもの様子を見ていると、いくらコールディアを助けた時に器用な魔法を使ったとは言え、戦えるようには思えない。
「先生は多分、ここにいる誰よりも戦える…」
「どうして…?」
疑問を口にした時、ついに魔物が黒い音楽教授の前に姿を現わした。
数は5体。
宮廷魔術師でも1度に1人で相手にできるのは3~4体と聞く。
「コールディア! 教授やられちゃうよ!」
「やられないよ…見て」
元々森の生き物であった動物が、マギア・カルマに取り込まれて変貌を遂げたのが魔物。
狼、梟、野ネズミでさえも、取り込まれてしまえば巨大化、狂暴化する。
今ノートヴォルトの前に現われたのは、元々群れで行動でもしていたのか、5体全て狼の原型を残していた。
唸りを上げた狼が1匹飛び掛かると、残りも一斉に飛び掛かった。
3人窓に張り付くようにして見守る中、ノートヴォルトは両手から素早く凍結の刃を四散させた。
それが複数の狼を切り裂くと同時に、最初に飛び掛かって来た1匹が彼の目の前で薙ぎ払われた。
出現させたのは冷気を纏う霧氷の剣。
攻撃は全て氷だった。
後から湧いてきたのは恐らく鹿。
草むらから飛び出した本来の鹿の3倍はありそうな魔物は、着地と同時に鋭い角をノートヴォルトに向け突進してくる。
しかし彼に激突する寸前に出現させた氷壁にぶつかると、衝撃でよろめいているうちに凍結の刃の追加攻撃で消滅した。
ラッピーも、フレウティーヌも、コールディアでさえも言葉が出ない。
華麗な魔法攻撃と言うより、最早鬼神とでも言った方がいいかもしれない。
それほど普段の生活からは想像できないような鬼気迫る戦い方だった。
どう見ても素人ではない。
全部で8匹の魔物を倒しても、まだ結界が再開する気配はない。
そうこうしているうちに、巨大な熊の魔物が現れた。
奥から威風堂々とでも言うようなゆったりした歩みで現れた熊は、2匹の鷹を従えている。
先に動いたのは鷹だった。
空からの奇襲に、ノートヴォルトは氷の矢を射ることで対処する。
1本だけ放った氷の矢は、途中で2つに分かれ2匹を狙うも、1匹だけ外れてしまった。
急降下して狙ってくる鷹に対処しているうちに、熊がいよいよ全速力で突っ込んでくる。
「先生っ!」
思わずコールディアが叫んだ時、熊の一撃の前にレングラントが立ち塞がった。
巨大な守りの盾が張られ、触れた熊が唸りを上げると1度後退した。
背中をレングラントに預けたノートヴォルトが逃した鷹を仕留めると、すぐさま隣に並んだ。
熊の頭上からレングラントの放つ絶対零度が降り注ぎ瞬く間に凍っていく。
凍り付いた熊の真ん中を氷筍の槍が貫くと、氷の熊が砕け散り、そのまま消えた。
(連携が…2人はこうして何度も戦ったことがあったのかな…)
キンッ
キンッ
短く澄んだ音は結界が再開された音。
2回鳴ったので、完全に戻ったのだろう。
誰も何も言えず、辺りは静まり返った。
やがて、宮廷魔術師とノートヴォルトが引き上げて来た。
最後までカフェで見ていた他の学生は、どうやら最初の宮廷魔術師たちが戦っていた方を見守っていたらしく、ノートヴォルトの方には気づいていなかった。
そちらはそちらで凄い戦いだったらしく、何か興奮したように上級生は騒いでいた。
「先生…レングラント様…」
コールディアがほっとしたように2人を迎えるが、ノートヴォルトの表情は硬い。
ラッピーとフレウティーヌが戦闘後の興奮を口にする前に「見なかったことにして」と言いそのまま去ってしまった。
「君たち」とレングラントに言われ、3人が振り向く。
「私が処理したということにしておいてくれ。これは手柄の横取りという意味ではない」
事情を知っているコールディアはすぐに「はい」と答えた。
遅れて、ラッピーとフレウティーヌも「はい」と言った。
3人の返事を聞くと、レングラントもノートヴォルトの後を追いかけた。
「コールディア、あなた何か知っていますの?」
「うん…」
「レングラント様がああ言うんだもん。私たち聞けないよね」
「うん…」
「では私たちはレングラント様が1人で瞬く間に魔物を倒すのを見てしまったということですわね」
「うん、宮廷魔術師凄い。魔術師学科のお馬鹿さんたちがああなれるとは思えない」
コールディアは2人の言葉に少し笑うと、ノートヴォルトの去った方を見つめた。
『僕の魔力は演奏のためにあるんであって攻撃するためのものじゃない』
脳裏に彼の言葉が思い出され、心が締め付けられるような気がした。
兵器であることを現実味を持って知った。
「コールディア?」
「あ、うん、なに?」
「元気出しなよ、食べ損ねたマフィン奢ってあげるから」
「じゃあプレーンとイチゴで」
「ではイチゴは私がご馳走しますわ」
事情を知ることは出来ないけど落ち込む親友に、2人は何も聞かずにマフィンで励ましてくれた。
カフェのおばちゃんには「あんたたちよく食べられるわね」と呆れられたが、誰もいなくなったカフェで3人、今あったことを忘れるためとでも言うようにペーパーテストの対策と流行りの化粧品の話で盛り上がった。
ラッピーとフレウティーヌが心配そうにノートヴォルトとコールディアを交互に見た。
いつもの様子を見ていると、いくらコールディアを助けた時に器用な魔法を使ったとは言え、戦えるようには思えない。
「先生は多分、ここにいる誰よりも戦える…」
「どうして…?」
疑問を口にした時、ついに魔物が黒い音楽教授の前に姿を現わした。
数は5体。
宮廷魔術師でも1度に1人で相手にできるのは3~4体と聞く。
「コールディア! 教授やられちゃうよ!」
「やられないよ…見て」
元々森の生き物であった動物が、マギア・カルマに取り込まれて変貌を遂げたのが魔物。
狼、梟、野ネズミでさえも、取り込まれてしまえば巨大化、狂暴化する。
今ノートヴォルトの前に現われたのは、元々群れで行動でもしていたのか、5体全て狼の原型を残していた。
唸りを上げた狼が1匹飛び掛かると、残りも一斉に飛び掛かった。
3人窓に張り付くようにして見守る中、ノートヴォルトは両手から素早く凍結の刃を四散させた。
それが複数の狼を切り裂くと同時に、最初に飛び掛かって来た1匹が彼の目の前で薙ぎ払われた。
出現させたのは冷気を纏う霧氷の剣。
攻撃は全て氷だった。
後から湧いてきたのは恐らく鹿。
草むらから飛び出した本来の鹿の3倍はありそうな魔物は、着地と同時に鋭い角をノートヴォルトに向け突進してくる。
しかし彼に激突する寸前に出現させた氷壁にぶつかると、衝撃でよろめいているうちに凍結の刃の追加攻撃で消滅した。
ラッピーも、フレウティーヌも、コールディアでさえも言葉が出ない。
華麗な魔法攻撃と言うより、最早鬼神とでも言った方がいいかもしれない。
それほど普段の生活からは想像できないような鬼気迫る戦い方だった。
どう見ても素人ではない。
全部で8匹の魔物を倒しても、まだ結界が再開する気配はない。
そうこうしているうちに、巨大な熊の魔物が現れた。
奥から威風堂々とでも言うようなゆったりした歩みで現れた熊は、2匹の鷹を従えている。
先に動いたのは鷹だった。
空からの奇襲に、ノートヴォルトは氷の矢を射ることで対処する。
1本だけ放った氷の矢は、途中で2つに分かれ2匹を狙うも、1匹だけ外れてしまった。
急降下して狙ってくる鷹に対処しているうちに、熊がいよいよ全速力で突っ込んでくる。
「先生っ!」
思わずコールディアが叫んだ時、熊の一撃の前にレングラントが立ち塞がった。
巨大な守りの盾が張られ、触れた熊が唸りを上げると1度後退した。
背中をレングラントに預けたノートヴォルトが逃した鷹を仕留めると、すぐさま隣に並んだ。
熊の頭上からレングラントの放つ絶対零度が降り注ぎ瞬く間に凍っていく。
凍り付いた熊の真ん中を氷筍の槍が貫くと、氷の熊が砕け散り、そのまま消えた。
(連携が…2人はこうして何度も戦ったことがあったのかな…)
キンッ
キンッ
短く澄んだ音は結界が再開された音。
2回鳴ったので、完全に戻ったのだろう。
誰も何も言えず、辺りは静まり返った。
やがて、宮廷魔術師とノートヴォルトが引き上げて来た。
最後までカフェで見ていた他の学生は、どうやら最初の宮廷魔術師たちが戦っていた方を見守っていたらしく、ノートヴォルトの方には気づいていなかった。
そちらはそちらで凄い戦いだったらしく、何か興奮したように上級生は騒いでいた。
「先生…レングラント様…」
コールディアがほっとしたように2人を迎えるが、ノートヴォルトの表情は硬い。
ラッピーとフレウティーヌが戦闘後の興奮を口にする前に「見なかったことにして」と言いそのまま去ってしまった。
「君たち」とレングラントに言われ、3人が振り向く。
「私が処理したということにしておいてくれ。これは手柄の横取りという意味ではない」
事情を知っているコールディアはすぐに「はい」と答えた。
遅れて、ラッピーとフレウティーヌも「はい」と言った。
3人の返事を聞くと、レングラントもノートヴォルトの後を追いかけた。
「コールディア、あなた何か知っていますの?」
「うん…」
「レングラント様がああ言うんだもん。私たち聞けないよね」
「うん…」
「では私たちはレングラント様が1人で瞬く間に魔物を倒すのを見てしまったということですわね」
「うん、宮廷魔術師凄い。魔術師学科のお馬鹿さんたちがああなれるとは思えない」
コールディアは2人の言葉に少し笑うと、ノートヴォルトの去った方を見つめた。
『僕の魔力は演奏のためにあるんであって攻撃するためのものじゃない』
脳裏に彼の言葉が思い出され、心が締め付けられるような気がした。
兵器であることを現実味を持って知った。
「コールディア?」
「あ、うん、なに?」
「元気出しなよ、食べ損ねたマフィン奢ってあげるから」
「じゃあプレーンとイチゴで」
「ではイチゴは私がご馳走しますわ」
事情を知ることは出来ないけど落ち込む親友に、2人は何も聞かずにマフィンで励ましてくれた。
カフェのおばちゃんには「あんたたちよく食べられるわね」と呆れられたが、誰もいなくなったカフェで3人、今あったことを忘れるためとでも言うようにペーパーテストの対策と流行りの化粧品の話で盛り上がった。
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