57 / 113
16
第15楽章 音楽教授の異母兄弟 2
しおりを挟む
「突然すまない。君がコールディアか」
「はい…」
「フリーシャから聞いている…グラスハープの奏者だね?」
「そうです」
「今も演奏を?」
「グラスハープは壊れてしまい、あれ以来弾けていません」
「今日はどうして火力を落とした?」
「…その方がいい気がしたからです」
フリーシャが来た時、グラスハープのマギアアフルイドの色がどうとか言っていた。
それにノートヴォルトもレポートの回答であまり詳しく書くと魔術師学科に連れて行かれると言っていた。
なんとなくだが、高火力がもし出せてしまったとしたら、それはまずいことのように感じたのだ。
彼女が意図的に落としたことに、レングラントは気づいているようだった。
「アフィナシオからは何か聞いている?」
「掻い摘んで少しだけ…ご兄弟でらっしゃることとか…先生が、特別な訓練を受けたこととか」
“兵器”と言ってしまうことが怖くて、少し湾曲した表現で答えた。
それを聞いたレングラントは、何か納得したのか軽く頷いた。
「君は状況をそこそこ理解しているようだね。それでいい。火力を抑えたのは正解だ。ここに居続けたいのならね。君はグラスのマギアフルイドの反応が不安定だった。そういう場合、この先大幅に魔力が増す可能性が高い」
「もし高くなったらどうなるんですか? 魔術師学科で優秀だった学生はどうなるんですか?」
レングラントは即答しない。
何を言って良くて、何を言わないべきか考えているようだった。
「魔術師学科の多くの学生は宮廷魔術師を目指す。私の部下にも出身者は大勢いる。だが飛び抜けて能力が高い場合、男の場合はより戦闘向けの訓練をされる。私もそうだ」
「じゃあ先生も?」
レングラントは首を振る。
「彼は違う。正妻以外から生まれたショスタークの血を引く子供は…魔力が高ければ男児は兵器として育てられ、女児は燃料として育てられる」
「燃料?」
「結界を維持するための魔力増殖装置。あれは日常的には我々の中でも結界術師が維持している。だが時として異常に減ってしまう時がある…そんな時に犠牲になるのが燃料だ。“もう1人の妹”の話は?」
コールディアが「亡くなったと聞きました」と答えると、彼は頷きながら沈痛な面持ちになった。
「燃料になるには自ら進んで魔力を捧げることが望ましい…それが最大限の魔力を引き出せるから。だがそれは死を意味する。尽きるまで吸い出され、そのあとは廃人になり、やがて衰弱死だ」
「それじゃ妹が亡くなったというのは…」
「自ら魔力を空になるまで捧げた後、廃人となった。“殺して”と叫ぶ声が今でも聞こえる時がある…アフィナシオは彼女が望む通りに殺し、自分も死のうとした……それを止め、父の元から逃がしたのは私とフリーシャだ」
聞いていた話よりずっと壮絶な内容に、言葉ではなく涙が溢れた。
死んだ妹とノートヴォルト、そしてレングラントとフリーシャの4人の兄弟の間には計り知れない絆があったのではないか。
どの道あと数日で絶える命とは言え、壊れた妹に自ら手をかけたノートヴォルトはどんな気持ちだったのだろう。
それこそ、彼も心が壊れてしまうのではないだろうか。
だから後を追おうとしたのではないだろうか。
「だが当時まだ子供の我々がそううまく逃がすことはできなかった。18になった時ようやくそのチャンスが訪れた。その時手を差し伸べ…そう言うと聞こえはいいが、保護してくれたのがマエスティン侯爵だ。彼は結界派への対抗手段を手に入れた。そして取り戻そうとした父との間でなんかしらのやり取りがあり、結果アフィナシオは両家の所有物になってしまった」
コールディアはポケットからハンカチを取り出し、止まらぬ涙を押さえた。
ノートヴォルトがくれた可愛くて繊細なハンカチは、あっという間に濡れていった。
「アフィナシオは君が魔力を伸ばすことは望まないだろう。緊急事態の燃料候補にさせるわけにはいかない。そうならないように私もフリーシャも全力を尽くしているが、現状事態はあまり良くない。妹の…アフェットの捧げた命が尽きようとしている」
「はい…」
「フリーシャから聞いている…グラスハープの奏者だね?」
「そうです」
「今も演奏を?」
「グラスハープは壊れてしまい、あれ以来弾けていません」
「今日はどうして火力を落とした?」
「…その方がいい気がしたからです」
フリーシャが来た時、グラスハープのマギアアフルイドの色がどうとか言っていた。
それにノートヴォルトもレポートの回答であまり詳しく書くと魔術師学科に連れて行かれると言っていた。
なんとなくだが、高火力がもし出せてしまったとしたら、それはまずいことのように感じたのだ。
彼女が意図的に落としたことに、レングラントは気づいているようだった。
「アフィナシオからは何か聞いている?」
「掻い摘んで少しだけ…ご兄弟でらっしゃることとか…先生が、特別な訓練を受けたこととか」
“兵器”と言ってしまうことが怖くて、少し湾曲した表現で答えた。
それを聞いたレングラントは、何か納得したのか軽く頷いた。
「君は状況をそこそこ理解しているようだね。それでいい。火力を抑えたのは正解だ。ここに居続けたいのならね。君はグラスのマギアフルイドの反応が不安定だった。そういう場合、この先大幅に魔力が増す可能性が高い」
「もし高くなったらどうなるんですか? 魔術師学科で優秀だった学生はどうなるんですか?」
レングラントは即答しない。
何を言って良くて、何を言わないべきか考えているようだった。
「魔術師学科の多くの学生は宮廷魔術師を目指す。私の部下にも出身者は大勢いる。だが飛び抜けて能力が高い場合、男の場合はより戦闘向けの訓練をされる。私もそうだ」
「じゃあ先生も?」
レングラントは首を振る。
「彼は違う。正妻以外から生まれたショスタークの血を引く子供は…魔力が高ければ男児は兵器として育てられ、女児は燃料として育てられる」
「燃料?」
「結界を維持するための魔力増殖装置。あれは日常的には我々の中でも結界術師が維持している。だが時として異常に減ってしまう時がある…そんな時に犠牲になるのが燃料だ。“もう1人の妹”の話は?」
コールディアが「亡くなったと聞きました」と答えると、彼は頷きながら沈痛な面持ちになった。
「燃料になるには自ら進んで魔力を捧げることが望ましい…それが最大限の魔力を引き出せるから。だがそれは死を意味する。尽きるまで吸い出され、そのあとは廃人になり、やがて衰弱死だ」
「それじゃ妹が亡くなったというのは…」
「自ら魔力を空になるまで捧げた後、廃人となった。“殺して”と叫ぶ声が今でも聞こえる時がある…アフィナシオは彼女が望む通りに殺し、自分も死のうとした……それを止め、父の元から逃がしたのは私とフリーシャだ」
聞いていた話よりずっと壮絶な内容に、言葉ではなく涙が溢れた。
死んだ妹とノートヴォルト、そしてレングラントとフリーシャの4人の兄弟の間には計り知れない絆があったのではないか。
どの道あと数日で絶える命とは言え、壊れた妹に自ら手をかけたノートヴォルトはどんな気持ちだったのだろう。
それこそ、彼も心が壊れてしまうのではないだろうか。
だから後を追おうとしたのではないだろうか。
「だが当時まだ子供の我々がそううまく逃がすことはできなかった。18になった時ようやくそのチャンスが訪れた。その時手を差し伸べ…そう言うと聞こえはいいが、保護してくれたのがマエスティン侯爵だ。彼は結界派への対抗手段を手に入れた。そして取り戻そうとした父との間でなんかしらのやり取りがあり、結果アフィナシオは両家の所有物になってしまった」
コールディアはポケットからハンカチを取り出し、止まらぬ涙を押さえた。
ノートヴォルトがくれた可愛くて繊細なハンカチは、あっという間に濡れていった。
「アフィナシオは君が魔力を伸ばすことは望まないだろう。緊急事態の燃料候補にさせるわけにはいかない。そうならないように私もフリーシャも全力を尽くしているが、現状事態はあまり良くない。妹の…アフェットの捧げた命が尽きようとしている」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる