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第15楽章 音楽教授の異母兄弟
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「おい、あの馬車ショスターク家の馬車じゃないか?」
ついに来てしまったテスト当日。
教室で待機していると、窓の外を見ていた男子学生が広場に現われた馬車を見てそう言った。
教室にいた女子が一気に窓に押しかけ、馬車から降りた人物が期待通りの人であることがわかると黄色い声が上がった。
「なんで? どうしてレングラント様が来るの!?」
ラッピーが窓に張り付いたまま言うと、彼女の後ろから隙間を探すフレウティーヌが言った。
「まさかテストをご覧に…?」
途端に教室内のざわめきが増し、男女関係なく大騒ぎとなった。
「静かにしたまえ。実技テストは呼ばれたら演習室2に来るように。宮廷魔術師の方が何人かいらっしゃる。魔術学院に恥をかかせるなよ」
魔術学部の教授が説明を終え去って行くと、教室にはまた騒ぎが戻った。
「どうしよう、私の髪形変じゃない?」
「私もっとおしゃれして来ればよかった」
そんな女子の声の合間に、男子の「もしかしたら俺も認めてもらえるかも」等と言った勘違いの声が聞こえる。
「どうしよう、すっごい緊張してきちゃった」
あまりそうは見えないラッピーがそう言い、その隣でフレウティーヌが青くなっていた。
コールディアは「そうだね」と同意するも、別の緊張に包まれていた。
(先生の異母兄弟って知ってから初めての対面になるかもしれない…なんか変な気分)
やがてチャイムがなり、1番の学生から順に部屋に呼ばれた。
しばらくすると、ついにフレウティーヌの番が来る。
「コールディア、あなたの練習法に感謝しますわ…おかげで私、なんとか緊張せずに挑めそうですもの」
「右手と右足が同時に出てるけどね」
「もう終わった人の話だと宮廷魔術師は大当たりのレングラント様らしいよ。はぁ。いいのか悪いのか」
「それでは行ってきますわね」
「フレウティーヌ、頑張って」
フレウティーヌが終わればあと5人くらいでコールディアの番のはずだ。
だがどういう訳か彼女は呼ばれず、結局最後の1人となってしまった。
「コールディア、最後君だよ」
終わった男子学生に名前を呼ばれ、やっと演習室2の扉をノックする。
教授の声がしてから扉を開けると、教室の端には教授と並んでレングラントが座っていた。
(改めて見ると似てる…確かに似てる…)
流れた黒髪はノートヴォルトとは違い当然整えられているが、顔立ちはそっくりだ。
年齢は変わらず、数か月違いと言っていた。
座っていてよくわからないが、以前の記憶を辿れば身長も近かった気がする。
身なりを整えて並ばせたら双子と言われるかもしれない。
「君、挨拶は」
不躾にも貴族であるレングラントの観察をしていたら、教授に怒られてしまった。
慌てて名前を告げ、挨拶をする。
貴族の作法など知ったこっちゃないので、一般人ができる最大の敬意を表して。
挨拶をしてもレングラントは冷たそうな視線を向けたまま、何も言わなかった。
(フリーシャ様とは仲がよさそうだったけど、レングラント様とは違うのかな…でも逃がしてくれたって言ってたし)
「実技テストは事前通告通り、最大火力で的に当てること。元素は問わない。さあ始めたまえ」
「よろしくお願いします…」
できるだけ後ろの視線は気にしないようにし、ノートヴォルトに教えてもらった練習を思い出す。
最近は魔力の出力が以前より安定してきた。
集中もできるようになり、確実に上達していた。
ついでに座学の集中力も上がったのは思わぬ副産物だった。
「風の矢」
風を選んだ理由は、以前ノートヴォルトが彼女を助けた時に使った魔法がこれだったから。
後に何故風だったのか聞いたところ、「1番楽器に影響が出ないから」と返って来た。
咄嗟に出した魔法なのに楽器への影響も考えるのは流石だなと思った。
的に向けて伸ばした右手から、風が発生し矢の形を取ると、的に向かって吸い込まれた。
集中して出した火力は自分の中では70%くらいの力。
矢はぶれることなく的の真ん中を貫き、後ろに設置された魔力緩衝壁によって受け止められ、消えた。
「計測の数値より威力が低いな」
「すみません、緊張してしまいました」
「君で最後か。ではこれで終了だな。レングラント様、つまらないテストにご参加いただきありがとうございました。別室にご案内いたします」
「席を少し外してくれるか」
ノートヴォルトより少し固い声質でレングラントがそう言うと、教授は驚いたような表情を浮かべた後、一礼して下がった。
教室に2人になってしまい、コールディアは自分の指先が緊張で冷たくなっていくのがわかった。
ついに来てしまったテスト当日。
教室で待機していると、窓の外を見ていた男子学生が広場に現われた馬車を見てそう言った。
教室にいた女子が一気に窓に押しかけ、馬車から降りた人物が期待通りの人であることがわかると黄色い声が上がった。
「なんで? どうしてレングラント様が来るの!?」
ラッピーが窓に張り付いたまま言うと、彼女の後ろから隙間を探すフレウティーヌが言った。
「まさかテストをご覧に…?」
途端に教室内のざわめきが増し、男女関係なく大騒ぎとなった。
「静かにしたまえ。実技テストは呼ばれたら演習室2に来るように。宮廷魔術師の方が何人かいらっしゃる。魔術学院に恥をかかせるなよ」
魔術学部の教授が説明を終え去って行くと、教室にはまた騒ぎが戻った。
「どうしよう、私の髪形変じゃない?」
「私もっとおしゃれして来ればよかった」
そんな女子の声の合間に、男子の「もしかしたら俺も認めてもらえるかも」等と言った勘違いの声が聞こえる。
「どうしよう、すっごい緊張してきちゃった」
あまりそうは見えないラッピーがそう言い、その隣でフレウティーヌが青くなっていた。
コールディアは「そうだね」と同意するも、別の緊張に包まれていた。
(先生の異母兄弟って知ってから初めての対面になるかもしれない…なんか変な気分)
やがてチャイムがなり、1番の学生から順に部屋に呼ばれた。
しばらくすると、ついにフレウティーヌの番が来る。
「コールディア、あなたの練習法に感謝しますわ…おかげで私、なんとか緊張せずに挑めそうですもの」
「右手と右足が同時に出てるけどね」
「もう終わった人の話だと宮廷魔術師は大当たりのレングラント様らしいよ。はぁ。いいのか悪いのか」
「それでは行ってきますわね」
「フレウティーヌ、頑張って」
フレウティーヌが終わればあと5人くらいでコールディアの番のはずだ。
だがどういう訳か彼女は呼ばれず、結局最後の1人となってしまった。
「コールディア、最後君だよ」
終わった男子学生に名前を呼ばれ、やっと演習室2の扉をノックする。
教授の声がしてから扉を開けると、教室の端には教授と並んでレングラントが座っていた。
(改めて見ると似てる…確かに似てる…)
流れた黒髪はノートヴォルトとは違い当然整えられているが、顔立ちはそっくりだ。
年齢は変わらず、数か月違いと言っていた。
座っていてよくわからないが、以前の記憶を辿れば身長も近かった気がする。
身なりを整えて並ばせたら双子と言われるかもしれない。
「君、挨拶は」
不躾にも貴族であるレングラントの観察をしていたら、教授に怒られてしまった。
慌てて名前を告げ、挨拶をする。
貴族の作法など知ったこっちゃないので、一般人ができる最大の敬意を表して。
挨拶をしてもレングラントは冷たそうな視線を向けたまま、何も言わなかった。
(フリーシャ様とは仲がよさそうだったけど、レングラント様とは違うのかな…でも逃がしてくれたって言ってたし)
「実技テストは事前通告通り、最大火力で的に当てること。元素は問わない。さあ始めたまえ」
「よろしくお願いします…」
できるだけ後ろの視線は気にしないようにし、ノートヴォルトに教えてもらった練習を思い出す。
最近は魔力の出力が以前より安定してきた。
集中もできるようになり、確実に上達していた。
ついでに座学の集中力も上がったのは思わぬ副産物だった。
「風の矢」
風を選んだ理由は、以前ノートヴォルトが彼女を助けた時に使った魔法がこれだったから。
後に何故風だったのか聞いたところ、「1番楽器に影響が出ないから」と返って来た。
咄嗟に出した魔法なのに楽器への影響も考えるのは流石だなと思った。
的に向けて伸ばした右手から、風が発生し矢の形を取ると、的に向かって吸い込まれた。
集中して出した火力は自分の中では70%くらいの力。
矢はぶれることなく的の真ん中を貫き、後ろに設置された魔力緩衝壁によって受け止められ、消えた。
「計測の数値より威力が低いな」
「すみません、緊張してしまいました」
「君で最後か。ではこれで終了だな。レングラント様、つまらないテストにご参加いただきありがとうございました。別室にご案内いたします」
「席を少し外してくれるか」
ノートヴォルトより少し固い声質でレングラントがそう言うと、教授は驚いたような表情を浮かべた後、一礼して下がった。
教室に2人になってしまい、コールディアは自分の指先が緊張で冷たくなっていくのがわかった。
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