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第13楽章 先生のピアノ 4
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(どうしよう、嬉しい、色々嬉しい)
広場の中央にある時計台は11時。
今日は集会だけで終わったので早い。
途中のカフェでお昼のパンを買って、それからグロッサリーで少し買い物して行こう。
それでも4時まで誰にも気兼ねなくピアノを練習できる。
しかもノートヴォルトの家で。
買い物を済ませてノートヴォルトの家に着いたのは12時近く。
流し込むようにお気に入りのサンドイッチを食べると、すぐピアノに向かった。
「はぁ。難しい…指が動かない…」
1時間ほどたった頃、珍しく疲れてしまい顔を上げた。
夏休み中に入り浸っていたこの部屋も、家主がいないのに自分だけいるのは不思議だった。
(なんか…恋人みたい…)
練習に飽きたわけではないが少し気持ちを切り替えようと思い、たった一日で散らばった物を集め所定の位置に戻した。
本棚には剥き出しのまま置かれた例のスケッチャ―がある。
「可愛い…」
こんなあどけない笑顔の時があったんだなと思うと、今の常に人目を避けるような姿勢と隠すような髪形がもったいなく思えてくる。
そうなってしまった経緯は想像するに余りあるが、この笑顔を取り戻すことはできないのだろうかとつい思ってしまった。
「額、買って来よう」
見えるように置いてあったのだから、思い出したくないわけではないのだろう。
ケースから取り出す時も見せてくれたのだし、数少ない彼の想い出をきちんと飾っておきたいと思った。
「もう少し頑張ろう…」
その後練習を続けたあと、帰る前に簡単な食事を用意し、メモを書き残すと約束通り警戒魔法を使い4時15分の馬車に乗った。
翌日から通常の授業も始まり、コールディアが授業にやって来ないノートヴォルトを呼びに行ったり行かなかったりする日も始まった。
フレウティーヌにはテスト対策とピアノの話、時々ノートヴォルトの話を聞かれる。
家の鍵を預かっていることはとてもじゃないが言えず、時々彼女の質問を曖昧に笑って誤魔化した。
そんなある日。
「あら…コールディア、そう言えば以前のリボンはどうしましたの?」
「あー…あれはちょっともう古くなってしまって」
「でもそのリボンの色も渋いですけどなかなかいい品ですわ。ちょっと見せて頂いてもよろしいかしら?」
「いいよ。貴族のご令嬢のお眼鏡にかないますか?」
「かなうも何も、これ王室でも御用達の老舗宝飾店の物ですわ…」
「嘘でしょ…」
「ご自分で買ったものではないですの?」
「頂き物でして…あ、じゃあこっちのハンカチは?」
ポケットから薄いピンクにレースがあしらわれたハンカチを取り出す。
「こちらは…こちらも老舗の洋品店で出している量産品ですわね。普通の量産品とは違いますわ。品質をクリアしないとこのマークは付けられないのよ。つまりどちらも高級品ですわ」
「嘘」
「どなたに頂きましたの?」
「えっと…」
それは昨日の話だった。
いつものように買い物をしてからピアノの練習をしようとノートヴォルトの家に向かった彼女は、ピアノの上にリボンのついた包みが置いてあるのに気づいた。
見れば、コールディア宛のもの。
メッセージカードにはこう書かれていた。
“リボンとハンカチのお礼。選んだのは僕じゃなくてフリーシャだけどね。ありがとう。食事も。”
中を開けると、以前使っていた色よりも深いかなり黒に近い緑のリボン。
光沢があり手触りも良く、高級品であろうことはわかった。
色味がノートヴォルトの瞳のようで、早速結んで鏡に映る姿を見たら気分が爆発的に上がってしまった。
ハンカチも繊細なレースが付いており、そんな可愛らしい物を持てたことのない彼女は思わず胸に抱きしめてしまった。
ちなみにカードは大事に家のデスクの引き出しにしまってある。
この日は練習にはならなかった。
広場の中央にある時計台は11時。
今日は集会だけで終わったので早い。
途中のカフェでお昼のパンを買って、それからグロッサリーで少し買い物して行こう。
それでも4時まで誰にも気兼ねなくピアノを練習できる。
しかもノートヴォルトの家で。
買い物を済ませてノートヴォルトの家に着いたのは12時近く。
流し込むようにお気に入りのサンドイッチを食べると、すぐピアノに向かった。
「はぁ。難しい…指が動かない…」
1時間ほどたった頃、珍しく疲れてしまい顔を上げた。
夏休み中に入り浸っていたこの部屋も、家主がいないのに自分だけいるのは不思議だった。
(なんか…恋人みたい…)
練習に飽きたわけではないが少し気持ちを切り替えようと思い、たった一日で散らばった物を集め所定の位置に戻した。
本棚には剥き出しのまま置かれた例のスケッチャ―がある。
「可愛い…」
こんなあどけない笑顔の時があったんだなと思うと、今の常に人目を避けるような姿勢と隠すような髪形がもったいなく思えてくる。
そうなってしまった経緯は想像するに余りあるが、この笑顔を取り戻すことはできないのだろうかとつい思ってしまった。
「額、買って来よう」
見えるように置いてあったのだから、思い出したくないわけではないのだろう。
ケースから取り出す時も見せてくれたのだし、数少ない彼の想い出をきちんと飾っておきたいと思った。
「もう少し頑張ろう…」
その後練習を続けたあと、帰る前に簡単な食事を用意し、メモを書き残すと約束通り警戒魔法を使い4時15分の馬車に乗った。
翌日から通常の授業も始まり、コールディアが授業にやって来ないノートヴォルトを呼びに行ったり行かなかったりする日も始まった。
フレウティーヌにはテスト対策とピアノの話、時々ノートヴォルトの話を聞かれる。
家の鍵を預かっていることはとてもじゃないが言えず、時々彼女の質問を曖昧に笑って誤魔化した。
そんなある日。
「あら…コールディア、そう言えば以前のリボンはどうしましたの?」
「あー…あれはちょっともう古くなってしまって」
「でもそのリボンの色も渋いですけどなかなかいい品ですわ。ちょっと見せて頂いてもよろしいかしら?」
「いいよ。貴族のご令嬢のお眼鏡にかないますか?」
「かなうも何も、これ王室でも御用達の老舗宝飾店の物ですわ…」
「嘘でしょ…」
「ご自分で買ったものではないですの?」
「頂き物でして…あ、じゃあこっちのハンカチは?」
ポケットから薄いピンクにレースがあしらわれたハンカチを取り出す。
「こちらは…こちらも老舗の洋品店で出している量産品ですわね。普通の量産品とは違いますわ。品質をクリアしないとこのマークは付けられないのよ。つまりどちらも高級品ですわ」
「嘘」
「どなたに頂きましたの?」
「えっと…」
それは昨日の話だった。
いつものように買い物をしてからピアノの練習をしようとノートヴォルトの家に向かった彼女は、ピアノの上にリボンのついた包みが置いてあるのに気づいた。
見れば、コールディア宛のもの。
メッセージカードにはこう書かれていた。
“リボンとハンカチのお礼。選んだのは僕じゃなくてフリーシャだけどね。ありがとう。食事も。”
中を開けると、以前使っていた色よりも深いかなり黒に近い緑のリボン。
光沢があり手触りも良く、高級品であろうことはわかった。
色味がノートヴォルトの瞳のようで、早速結んで鏡に映る姿を見たら気分が爆発的に上がってしまった。
ハンカチも繊細なレースが付いており、そんな可愛らしい物を持てたことのない彼女は思わず胸に抱きしめてしまった。
ちなみにカードは大事に家のデスクの引き出しにしまってある。
この日は練習にはならなかった。
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