49 / 113
14
第13楽章 先生のピアノ 2
しおりを挟む
翌日、夏休み前と同じく学院の門前は大量の馬車でごった返していた。
荷物を運び込む貴族の寮生は使用人が一緒に寮まで付き添い、人数もとにかく多い。
コールディアはなんとか人をかき分けると門を抜け、ロッカーまで辿り着いた。
学校支給のローブ、重い教科書、その他置いておきたい物を整理して詰め込むと、空き教室でフレウティーヌを待った。
窓から見える広場はお祭りでもしているかのような人だかり。
知り合いの馬車が見えないか眺めていると、「お久しぶり」という声が聞こえた。
「フレウティーヌ! 元気だった? 手紙ありがとう」
「コールディアも元気でした? 私もお返事ありがとう。ノートヴォルト教授のメイドをしていたんですって?」
「内緒ね。また男子に何か言われる。凄いよ先生の部屋。あの教授室の比じゃないの」
「まあ。それって人の住む場所ですの?」
「住んでるんだから驚きだよね」
それからフレウティーヌの別荘地の話や課題が難しかった話、グラスハープの犯人が“捕まった”話などをしているうちに、全体集会の時間になった。
学院長の大変ありがたいお話しを聞いた後、今月の予定、特に最初の難関、テストの説明がある。
前期末は発表会があるため、前期にテストはない。
その代わり夏休み明けに実技とペーパーテストがかなり出る。
夏休みが休みだからと呆けていると、ここで大幅に成績を落とすことになるので、コールディアはメイドの仕事をしつつノートヴォルトに色々話を聞けたのは本当に助かったと思った。
「コールディア、ピアノは大丈夫ですの?」
フレウティーヌは事情をよくわかっている。
高等部までは寮内で一緒だったし、練習量も2人とも同じくらいだった。
しかし学院生からはそうはいかない。
「実はね、先生のピアノ借りて練習できたの。専属講師付き…」
「逆に羨ましいですわ…」
「だからこれも内緒ね。男子に殺されちゃう」
ただでさえ男子には「教授に取り入っている」と言われている。
とてもじゃないが夏休み中の話など言えない。言うつもりもないが。
魔術学部の教授によって偉そうな実技の諸注意がされる。
そう、実技は何もピアノだけではない。
魔術学院にいる以上、最低限の魔術もやらされるのだ。
誰も聞いていない話を背景に、フレウティーヌがちょっとだけ身を寄せてくる。
こそこそと耳打ちをしてきた。
「ところで、そんなに一緒にいてお2人には何もありませんの」
「あっ…あるわけないでしょ、教授と学生だよ?」
「最初の“あっ”が気になりますわ。教授と言ったって、まだ26歳ですのよ? 何か起きても不思議じゃないですわ」
「起こさないよっ」
フレウティーヌは「残念ですわ」と言うと離れた。
(もう、女子はそういう話好きすぎるでしょ。…私もだけど)
長すぎる教授の話に、またフレウティーヌが身を寄せてくる。
「ところでノートヴォルト教授のお顔をご覧になったことはありますの? いつもあの調子でしょ? 一緒にいてあの髪が柳ではなくなるようなことありませんでしたの?」
「柳ってフレウティーヌもそう思うんだ。まあ、見たことはあるよ」
ちょっとだけ言い方が自慢げになってしまったかもしれない。
「まあ! どんな? どんなお顔でしたの!?」
「なんでそんな食いつきいいの?」
「あら知りませんの? あまりにも実体がわからなすぎて、女子の間では両極端な噂が多いですわ。物凄く醜悪説と、物凄く美形説」
「知らなかったよ…」
そのまま前を向いてお行儀よくしていたら、「話は終わりでなくてよ?」と言われてしまった。はぐらかそうとしたのに。
「どっちだと思う?」
「そんなの女子なら美形がいいに決まっていますわ」
「でも個人の価値観で変わらない?」
「こういう時は一般論を言うものですわ」
「どっちでもなかったらなんて言うの?」
「個人の主観でかまいませんわ」
「それって私のセンスを問われない?」
「というか隠す必要がありますの? 怪しいですわ…さては教授のことが…」
「美形だよ」
その先を言われると誤魔化しきれない気がして答えを言った。
そもそも何を誤魔化すのかも自分でよくわからなかったが、絶対に変な反応になってしまう自信がある。
「それは念のためにお聞きしますけど、一般論の方ですの?」
「学院の女子100人に聞いて100人全員美形って言うと思う」
「やっぱり何かありましたわね?」
「どうしてそっちに行くのよー!」
いつの間にか会場に拍手が起きていて、2人もそれに倣った。何が起きているのかはわからないが。
荷物を運び込む貴族の寮生は使用人が一緒に寮まで付き添い、人数もとにかく多い。
コールディアはなんとか人をかき分けると門を抜け、ロッカーまで辿り着いた。
学校支給のローブ、重い教科書、その他置いておきたい物を整理して詰め込むと、空き教室でフレウティーヌを待った。
窓から見える広場はお祭りでもしているかのような人だかり。
知り合いの馬車が見えないか眺めていると、「お久しぶり」という声が聞こえた。
「フレウティーヌ! 元気だった? 手紙ありがとう」
「コールディアも元気でした? 私もお返事ありがとう。ノートヴォルト教授のメイドをしていたんですって?」
「内緒ね。また男子に何か言われる。凄いよ先生の部屋。あの教授室の比じゃないの」
「まあ。それって人の住む場所ですの?」
「住んでるんだから驚きだよね」
それからフレウティーヌの別荘地の話や課題が難しかった話、グラスハープの犯人が“捕まった”話などをしているうちに、全体集会の時間になった。
学院長の大変ありがたいお話しを聞いた後、今月の予定、特に最初の難関、テストの説明がある。
前期末は発表会があるため、前期にテストはない。
その代わり夏休み明けに実技とペーパーテストがかなり出る。
夏休みが休みだからと呆けていると、ここで大幅に成績を落とすことになるので、コールディアはメイドの仕事をしつつノートヴォルトに色々話を聞けたのは本当に助かったと思った。
「コールディア、ピアノは大丈夫ですの?」
フレウティーヌは事情をよくわかっている。
高等部までは寮内で一緒だったし、練習量も2人とも同じくらいだった。
しかし学院生からはそうはいかない。
「実はね、先生のピアノ借りて練習できたの。専属講師付き…」
「逆に羨ましいですわ…」
「だからこれも内緒ね。男子に殺されちゃう」
ただでさえ男子には「教授に取り入っている」と言われている。
とてもじゃないが夏休み中の話など言えない。言うつもりもないが。
魔術学部の教授によって偉そうな実技の諸注意がされる。
そう、実技は何もピアノだけではない。
魔術学院にいる以上、最低限の魔術もやらされるのだ。
誰も聞いていない話を背景に、フレウティーヌがちょっとだけ身を寄せてくる。
こそこそと耳打ちをしてきた。
「ところで、そんなに一緒にいてお2人には何もありませんの」
「あっ…あるわけないでしょ、教授と学生だよ?」
「最初の“あっ”が気になりますわ。教授と言ったって、まだ26歳ですのよ? 何か起きても不思議じゃないですわ」
「起こさないよっ」
フレウティーヌは「残念ですわ」と言うと離れた。
(もう、女子はそういう話好きすぎるでしょ。…私もだけど)
長すぎる教授の話に、またフレウティーヌが身を寄せてくる。
「ところでノートヴォルト教授のお顔をご覧になったことはありますの? いつもあの調子でしょ? 一緒にいてあの髪が柳ではなくなるようなことありませんでしたの?」
「柳ってフレウティーヌもそう思うんだ。まあ、見たことはあるよ」
ちょっとだけ言い方が自慢げになってしまったかもしれない。
「まあ! どんな? どんなお顔でしたの!?」
「なんでそんな食いつきいいの?」
「あら知りませんの? あまりにも実体がわからなすぎて、女子の間では両極端な噂が多いですわ。物凄く醜悪説と、物凄く美形説」
「知らなかったよ…」
そのまま前を向いてお行儀よくしていたら、「話は終わりでなくてよ?」と言われてしまった。はぐらかそうとしたのに。
「どっちだと思う?」
「そんなの女子なら美形がいいに決まっていますわ」
「でも個人の価値観で変わらない?」
「こういう時は一般論を言うものですわ」
「どっちでもなかったらなんて言うの?」
「個人の主観でかまいませんわ」
「それって私のセンスを問われない?」
「というか隠す必要がありますの? 怪しいですわ…さては教授のことが…」
「美形だよ」
その先を言われると誤魔化しきれない気がして答えを言った。
そもそも何を誤魔化すのかも自分でよくわからなかったが、絶対に変な反応になってしまう自信がある。
「それは念のためにお聞きしますけど、一般論の方ですの?」
「学院の女子100人に聞いて100人全員美形って言うと思う」
「やっぱり何かありましたわね?」
「どうしてそっちに行くのよー!」
いつの間にか会場に拍手が起きていて、2人もそれに倣った。何が起きているのかはわからないが。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
ヤンデレ義父に執着されている娘の話
アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。
色々拗らせてます。
前世の2人という話はメリバ。
バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
保健室の先生に召使にされた僕はお悩み解決を通して学校中の女子たちと仲良くなっていた
結城 刹那
恋愛
最上 文也(もがみ ふみや)は睡眠に難を抱えていた。
高校の入学式。文也は眠気に勝てず保健室で休むことになる。
保健室に来たが誰もいなかったため、無断でベッドを使わせてもらった。寝転がっている最中、保健室の先生である四宮 悠(しのみや ゆう)がやって来た。彼女は誰もいないと分かると人知れずエロゲを始めたのだった。
文也は美女である四宮先生の秘密を知った。本来なら秘密を知って卑猥なことをする展開だが、それが仇となって彼女の召使にされることとなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる