学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

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第13楽章 先生のピアノ 2

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 翌日、夏休み前と同じく学院の門前は大量の馬車でごった返していた。
 荷物を運び込む貴族の寮生は使用人が一緒に寮まで付き添い、人数もとにかく多い。

 コールディアはなんとか人をかき分けると門を抜け、ロッカーまで辿り着いた。
 
 学校支給のローブ、重い教科書、その他置いておきたい物を整理して詰め込むと、空き教室でフレウティーヌを待った。
 窓から見える広場はお祭りでもしているかのような人だかり。
 知り合いの馬車が見えないか眺めていると、「お久しぶり」という声が聞こえた。

「フレウティーヌ! 元気だった? 手紙ありがとう」

「コールディアも元気でした? 私もお返事ありがとう。ノートヴォルト教授のメイドをしていたんですって?」

「内緒ね。また男子に何か言われる。凄いよ先生の部屋。あの教授室の比じゃないの」

「まあ。それって人の住む場所ですの?」

「住んでるんだから驚きだよね」

 それからフレウティーヌの別荘地の話や課題が難しかった話、グラスハープの犯人が“捕まった”話などをしているうちに、全体集会の時間になった。

 学院長の大変ありがたいお話しを聞いた後、今月の予定、特に最初の難関、テストの説明がある。

 前期末は発表会があるため、前期にテストはない。
 その代わり夏休み明けに実技とペーパーテストがかなり出る。
 夏休みが休みだからと呆けていると、ここで大幅に成績を落とすことになるので、コールディアはメイドの仕事をしつつノートヴォルトに色々話を聞けたのは本当に助かったと思った。

「コールディア、ピアノは大丈夫ですの?」

 フレウティーヌは事情をよくわかっている。
 高等部までは寮内で一緒だったし、練習量も2人とも同じくらいだった。
 しかし学院生からはそうはいかない。

「実はね、先生のピアノ借りて練習できたの。専属講師付き…」

「逆に羨ましいですわ…」

「だからこれも内緒ね。男子に殺されちゃう」

 ただでさえ男子には「教授に取り入っている」と言われている。
 とてもじゃないが夏休み中の話など言えない。言うつもりもないが。

 魔術学部の教授によって偉そうな実技の諸注意がされる。
 そう、実技は何もピアノだけではない。
 魔術学院にいる以上、最低限の魔術もやらされるのだ。
 
 誰も聞いていない話を背景に、フレウティーヌがちょっとだけ身を寄せてくる。
 こそこそと耳打ちをしてきた。

「ところで、そんなに一緒にいてお2人には何もありませんの」

「あっ…あるわけないでしょ、教授と学生だよ?」

「最初の“あっ”が気になりますわ。教授と言ったって、まだ26歳ですのよ? 何か起きても不思議じゃないですわ」

「起こさないよっ」

 フレウティーヌは「残念ですわ」と言うと離れた。

(もう、女子はそういう話好きすぎるでしょ。…私もだけど)

 長すぎる教授の話に、またフレウティーヌが身を寄せてくる。

「ところでノートヴォルト教授のお顔をご覧になったことはありますの? いつもあの調子でしょ? 一緒にいてあの髪が柳ではなくなるようなことありませんでしたの?」

「柳ってフレウティーヌもそう思うんだ。まあ、見たことはあるよ」

 ちょっとだけ言い方が自慢げになってしまったかもしれない。

「まあ! どんな? どんなお顔でしたの!?」

「なんでそんな食いつきいいの?」

「あら知りませんの? あまりにも実体がわからなすぎて、女子の間では両極端な噂が多いですわ。物凄く醜悪説と、物凄く美形説」

「知らなかったよ…」

 そのまま前を向いてお行儀よくしていたら、「話は終わりでなくてよ?」と言われてしまった。はぐらかそうとしたのに。

「どっちだと思う?」

「そんなの女子なら美形がいいに決まっていますわ」

「でも個人の価値観で変わらない?」

「こういう時は一般論を言うものですわ」

「どっちでもなかったらなんて言うの?」

「個人の主観でかまいませんわ」

「それって私のセンスを問われない?」

「というか隠す必要がありますの? 怪しいですわ…さては教授のことが…」

「美形だよ」

 その先を言われると誤魔化しきれない気がして答えを言った。
 そもそも何を誤魔化すのかも自分でよくわからなかったが、絶対に変な反応になってしまう自信がある。

「それは念のためにお聞きしますけど、一般論の方ですの?」

「学院の女子100人に聞いて100人全員美形って言うと思う」

「やっぱり何かありましたわね?」

「どうしてそっちに行くのよー!」

 いつの間にか会場に拍手が起きていて、2人もそれに倣った。何が起きているのかはわからないが。
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