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第12楽章 問一。 4
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「君は納得しないかもしれないけど」
「そりゃあちょっと悔しいですよ。グラスハープもですけど、せめて先生が受けた傷と同じものは受けて欲しいですね!」
「そういうのいいから」
「良くないですよ。もーーっ! ほんと今日は腹立つ」
「ここでまた荒立ててしまうと学院の外で報復があった場合に君は困るだろう。今日だって警戒魔法が反応したんだ」
「そうだ、あの反応って誰なんでしょう」
「恐らくだけどフリオッソじゃないかな。君を見かけて咄嗟に何か仕掛けようとしたけど、僕がいたからやめた。そのまま後を付けて来て学院に来たのを確認し、さっきの連中と…てのは僕の予想だけどね」
「なんなのよ、ほんと。自分が悪いくせに」
「プライドだけで生きてるとそうなる」
その後もまだ怒りの収まらないコールディアがもうもう牛のようになっているうちに、図書館に着いた。
「先生、先に先生の本を探すお手伝いします! 何冊ですか? なんて言う本ですか?」
中に入るなり、コールディアが親切を装ってそう言ってきた。
彼女のテストに対する明らかな魂胆に、ノートヴォルトがやや軽蔑の眼差しを向けるのにもめげない。
「助手クビになりたい?」
「スミマセンデシタ」
「君のはあっち。D―15あたりにある“数値化で見る魔術”」
コールディアは指差された本棚に「はーい」と言うと素直に向かった。
振り返りたい気持ちもあるけど、あまりふざけて彼の信用を失っても困る。
「D…D…ここだ…えーと13、14…15、15、15、16…あれ、ないよ」
D―15の辺りを探すも、目当ての本が見つからず16になってしまった。
誰かが借りてるのかな? と思いつつも、周辺を見てみる。
「うわ…最悪。誰よあんなとこに入れたの」
目的の本を見つけたが、誰かが間違って入れたのかそれはよりにもよって一番上の棚。
コールディアが届かない最後の1段に収まっていた。
「んーーー、やればできる! この間は届いたし!」
棚に左手をかけ、背伸びをして思いっきり右手を伸ばす。
本の下の方に手がかかり、この背表紙を引き抜けば…
「きつすぎるよ! なんでこんなぎちぎちなの!」
「君さ、ラダーって知ってる?」
次こそいけるのではとまた手を伸ばした時、背後が陰ってすっと黒い腕が伸びて来た。
背中に感じる気配と声はノートヴォルトのもの。
「はい!」と返事でもしそうな腕を伸ばした姿勢のまま、妙に固い動きで振り返れば思った通りの呆れ顔があった。
ノートヴォルトが取った本がぬっと眼前に突き出される。
コールディアはそれを受け取ると、そのまま目だけ出して顔を隠すように本を持った。
「あ、ありがとうございます…」
「…ラダー。使いなよ」
「あれレールが引っかかることあるからめんどくさいんです」
「…僕の部屋はあれだけ片付けるくせに」
そう言うと彼は司書に目的の本の利用予約だけし、コールディアを置いてさっさと行ってしまった。
「あれ? なんか先生、変? 怒ってるのかな…?」
コールディアは自分では気づかない。
彼にありがとうと言った時の声が、僅かに上がっていたことを。
ノートヴォルトの耳には、それはいつもの調子+3で聞こえていた。
上ずった声は、ただの照れとは少し違う反応。
ノートヴォルトには、それが泣いた時以上に酷く落ち着かないものに感じた。
コールディアは不思議に思いつつも、目的の本を借りると急いでノートヴォルトを追いかけたのだった。
「そりゃあちょっと悔しいですよ。グラスハープもですけど、せめて先生が受けた傷と同じものは受けて欲しいですね!」
「そういうのいいから」
「良くないですよ。もーーっ! ほんと今日は腹立つ」
「ここでまた荒立ててしまうと学院の外で報復があった場合に君は困るだろう。今日だって警戒魔法が反応したんだ」
「そうだ、あの反応って誰なんでしょう」
「恐らくだけどフリオッソじゃないかな。君を見かけて咄嗟に何か仕掛けようとしたけど、僕がいたからやめた。そのまま後を付けて来て学院に来たのを確認し、さっきの連中と…てのは僕の予想だけどね」
「なんなのよ、ほんと。自分が悪いくせに」
「プライドだけで生きてるとそうなる」
その後もまだ怒りの収まらないコールディアがもうもう牛のようになっているうちに、図書館に着いた。
「先生、先に先生の本を探すお手伝いします! 何冊ですか? なんて言う本ですか?」
中に入るなり、コールディアが親切を装ってそう言ってきた。
彼女のテストに対する明らかな魂胆に、ノートヴォルトがやや軽蔑の眼差しを向けるのにもめげない。
「助手クビになりたい?」
「スミマセンデシタ」
「君のはあっち。D―15あたりにある“数値化で見る魔術”」
コールディアは指差された本棚に「はーい」と言うと素直に向かった。
振り返りたい気持ちもあるけど、あまりふざけて彼の信用を失っても困る。
「D…D…ここだ…えーと13、14…15、15、15、16…あれ、ないよ」
D―15の辺りを探すも、目当ての本が見つからず16になってしまった。
誰かが借りてるのかな? と思いつつも、周辺を見てみる。
「うわ…最悪。誰よあんなとこに入れたの」
目的の本を見つけたが、誰かが間違って入れたのかそれはよりにもよって一番上の棚。
コールディアが届かない最後の1段に収まっていた。
「んーーー、やればできる! この間は届いたし!」
棚に左手をかけ、背伸びをして思いっきり右手を伸ばす。
本の下の方に手がかかり、この背表紙を引き抜けば…
「きつすぎるよ! なんでこんなぎちぎちなの!」
「君さ、ラダーって知ってる?」
次こそいけるのではとまた手を伸ばした時、背後が陰ってすっと黒い腕が伸びて来た。
背中に感じる気配と声はノートヴォルトのもの。
「はい!」と返事でもしそうな腕を伸ばした姿勢のまま、妙に固い動きで振り返れば思った通りの呆れ顔があった。
ノートヴォルトが取った本がぬっと眼前に突き出される。
コールディアはそれを受け取ると、そのまま目だけ出して顔を隠すように本を持った。
「あ、ありがとうございます…」
「…ラダー。使いなよ」
「あれレールが引っかかることあるからめんどくさいんです」
「…僕の部屋はあれだけ片付けるくせに」
そう言うと彼は司書に目的の本の利用予約だけし、コールディアを置いてさっさと行ってしまった。
「あれ? なんか先生、変? 怒ってるのかな…?」
コールディアは自分では気づかない。
彼にありがとうと言った時の声が、僅かに上がっていたことを。
ノートヴォルトの耳には、それはいつもの調子+3で聞こえていた。
上ずった声は、ただの照れとは少し違う反応。
ノートヴォルトには、それが泣いた時以上に酷く落ち着かないものに感じた。
コールディアは不思議に思いつつも、目的の本を借りると急いでノートヴォルトを追いかけたのだった。
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