学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

文字の大きさ
上 下
47 / 113
13

第12楽章 問一。 4

しおりを挟む
「君は納得しないかもしれないけど」

「そりゃあちょっと悔しいですよ。グラスハープもですけど、せめて先生が受けた傷と同じものは受けて欲しいですね!」

「そういうのいいから」

「良くないですよ。もーーっ! ほんと今日は腹立つ」

「ここでまた荒立ててしまうと学院の外で報復があった場合に君は困るだろう。今日だって警戒魔法が反応したんだ」

「そうだ、あの反応って誰なんでしょう」

「恐らくだけどフリオッソじゃないかな。君を見かけて咄嗟に何か仕掛けようとしたけど、僕がいたからやめた。そのまま後を付けて来て学院に来たのを確認し、さっきの連中と…てのは僕の予想だけどね」

「なんなのよ、ほんと。自分が悪いくせに」

「プライドだけで生きてるとそうなる」

 その後もまだ怒りの収まらないコールディアがもうもう牛のようになっているうちに、図書館に着いた。

「先生、先に先生の本を探すお手伝いします! 何冊ですか? なんて言う本ですか?」

 中に入るなり、コールディアが親切を装ってそう言ってきた。
 彼女のテストに対する明らかな魂胆に、ノートヴォルトがやや軽蔑の眼差しを向けるのにもめげない。
 
「助手クビになりたい?」

「スミマセンデシタ」

「君のはあっち。D―15あたりにある“数値化で見る魔術”」

 コールディアは指差された本棚に「はーい」と言うと素直に向かった。
 振り返りたい気持ちもあるけど、あまりふざけて彼の信用を失っても困る。
 
「D…D…ここだ…えーと13、14…15、15、15、16…あれ、ないよ」

 D―15の辺りを探すも、目当ての本が見つからず16になってしまった。
 誰かが借りてるのかな? と思いつつも、周辺を見てみる。

「うわ…最悪。誰よあんなとこに入れたの」

 目的の本を見つけたが、誰かが間違って入れたのかそれはよりにもよって一番上の棚。
 コールディアが届かない最後の1段に収まっていた。

「んーーー、やればできる! この間は届いたし!」

 棚に左手をかけ、背伸びをして思いっきり右手を伸ばす。
 本の下の方に手がかかり、この背表紙を引き抜けば…

「きつすぎるよ! なんでこんなぎちぎちなの!」

「君さ、ラダーって知ってる?」

 次こそいけるのではとまた手を伸ばした時、背後が陰ってすっと黒い腕が伸びて来た。
 背中に感じる気配と声はノートヴォルトのもの。
 「はい!」と返事でもしそうな腕を伸ばした姿勢のまま、妙に固い動きで振り返れば思った通りの呆れ顔があった。

 ノートヴォルトが取った本がぬっと眼前に突き出される。
 コールディアはそれを受け取ると、そのまま目だけ出して顔を隠すように本を持った。

「あ、ありがとうございます…」

「…ラダー。使いなよ」

「あれレールが引っかかることあるからめんどくさいんです」

「…僕の部屋はあれだけ片付けるくせに」

 そう言うと彼は司書に目的の本の利用予約だけし、コールディアを置いてさっさと行ってしまった。

「あれ? なんか先生、変? 怒ってるのかな…?」

 コールディアは自分では気づかない。
 彼にありがとうと言った時の声が、僅かに上がっていたことを。
 ノートヴォルトの耳には、それはいつもの調子+3で聞こえていた。
 上ずった声は、ただの照れとは少し違う反応。
 ノートヴォルトには、それが泣いた時以上に酷く落ち着かないものに感じた。

 コールディアは不思議に思いつつも、目的の本を借りると急いでノートヴォルトを追いかけたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

先生と私。

狭山雪菜
恋愛
茂木結菜(もぎ ゆいな)は、高校3年生。1年の時から化学の教師林田信太郎(はやしだ しんたろう)に恋をしている。なんとか彼に自分を見てもらおうと、学級委員になったり、苦手な化学の授業を選択していた。 3年生になった時に、彼が担任の先生になった事で嬉しくて、勢い余って告白したのだが… 全編甘々を予定しております。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

メリザンドの幸福

下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。 メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。 メリザンドは公爵家で幸せになれるのか? 小説家になろう様でも投稿しています。 蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

処理中です...