学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

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第12楽章 問一。 3

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「先生っ! 今治しますからっ」

「いい。このまま残しておいてくれ。鑑定してもらう」

「でも血が…」

「あとで治せる。大丈夫だから」

「じゃあ止血くらいさせてください」

 そう言うとコールディアはえぐえぐと泣きながら、ポケットからハンカチを出す。
 頬の血を拭ってから右手の傷に巻いたけど、すぐに血が滲んできた。
 左手の分のハンカチがなくて、いつもの三つ編みのリボンを取った。
 くるくると巻き付けると、こちらにも血が滲んだ。

「アーレイ教授の所へ行こう。彼は高確率で学院にいるから」

 コールディアはひっくひっくしながら頷くと、魔術師学科のアーレイ教授の部屋へと向かった。

「ま、待ってください」

 上級生の一人が、言葉を改めてノートヴォルトを引き留めた。
 無言で振り返ると、ストラヴィス教授の前で3人が狼狽えていた。

「あの、ストラヴィス教授はどうしたら…」

「問一。精神攻撃をした者がその術を反射された場合に有効な回復魔法と必要な魔力量を答えなさい。ただし相手の魔力係数は術者に対して1.5とする」

 問題の形で返された返事に、3人が一斉に考え始めた。
 そんな彼らは放っておき、ノートヴォルトは再び歩き出す。

「先生、1.5って相手の魔力の1.5倍で返したってことですか」

「そう」

「…あれ、でも魔力にあまりに差があると今の魔法はかからないんじゃ…」

 ノートヴォルトの魔力が具体的にどの程度かは知らないが、低いわけがない。だとしたらストラヴィス教授は一体どのくらいの魔力を使ったのだろうか。

「必要な時以外は抑えてるよ。宮廷魔術師も高魔力所持者はそうしてる。高けりゃ高いでそれなりに不便もあるからね。今の僕はストラヴィス教授の半分くらい。学院内でもそれなら低い方になる」

 コールディアは後ろを振り返った。
 彼らはノートヴォルトの魔力量など知らない。
 ストラヴィス教授の魔力量から推測するだろうが、せいぜい高等部程度のカス魔力と思っている彼らが答えに辿り着くのはもう少しかかりそうだ。

「半分…その1.5倍でも彼らには想定外の数値になりそう。相当先生のこと馬鹿にしてましたからね!」

「本当はギリギリでいきたかったけど、君を拘束する連中を見ていたら腹が立った。まあ今までも度々僕にちょっかい出してたし、どうせほっといても1時間もすれば起きる」

「あの、これ私今“きゅん”てしていいところですか?」

「そういうのはこっそり勝手にやってよ」

「そうします…じゃなくて、先生色々とまずくないんですか? 魔力があることわかったりとか」

「ストラヴィス教授はプライド高いからね。どうせ“弱体化してやった”とか言うよ」

「そっか。よかった。でもよくない。なんか悔しい。もーっ」

 傷だらけのノートヴォルトより、なぜかコールディアの方が地団太を踏んでいる。

「先生も悔しくないんですか?」

「別に。僕は平穏な方がいい」

 そう言われてしまえば、コールディアも何も言えなくなる。
 彼は悔しいと思えばいくらでも反撃手段があるのだろうし、きっと何か問題を起こしたところでもみ消してしまう有力者が背景にいる。
 その有力者が彼の味方ではないのは百も承知だが。

 彼は自分の理不尽な人生をどう受け止めているのだろう。

 言葉が返せないでいるうちに、アーレイ教授の部屋に着いた。

「そう言えば先生、自分でも魔力追跡ならきっとできますよね?」

「他人がやるとこに意味があるんだよ。僕が納得して終わりってものじゃない」

「なるほど…なんで高確率でいるんですか?」

「奥さんが怖いらしい」

「なるほど」

 ノックをすれば、すぐに返事があった。
 中に入ると、ノートヴォルト教授の姿を見て慌てていた。

「そ、それどうしたんですか」

「気にしないで下さい。ちょっと事故に巻き込まれただけです」

「また例の教授?」

「この3か所の傷を魔力追跡してもらえませんか。そしてグラスハープの魔力と比較して欲しいのですが」

「まさか犯人と接触したのか?」

「したかもしれない、ということです」

「わかった」

 アーレイ教授は鍵のかかった引き出しからガラス瓶を取り出すと、ノートヴォルトの頬、左右の手から残存魔力を辿った。
 そして瓶に保存されたグラスハープの破片と比較する。

「この…火傷の痕が極めて似ている…90%は一致するな…誰にやられたんだ?」

「学生の1人ですが相手はわかりません」

「なんだわからないのか…それでは学院に正確に報告することもできないな」

「ですがもう何もしてこないと思います。協力していただいて申し訳ないですが、これで解決ということにしようかと思います」

「君の大事な楽器を破壊されているのにいいのか? それに後ろの奏者の君も」

 コールディアにも話が振られる。
 教授間だけでなく、学生の心配もしてくれるらしい。
 あまり知らないけど、ノートヴォルトが頼った人物は確かに公平そうだった。

「私はノートヴォルト教授がいいのならそれで構いません。悔しい気持ちもありますけど、あくまで学院の持ち物ですし。ご心配ありがとうございます」

「僕は僕だけに関わる話でもないので。事を大きくしたくありません」

「相変わらずだな…ではもうこの証拠は破棄でいいのだな?」

「構いません」

「わかった。あとで処分しておこう」

 事件は解決したことになり、コールディアはノートヴォルトの傷を治した。
 アーレイ教授があっさり納得したのは、以前にも似たようなことがあったのかもしれない。
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