上 下
42 / 113
12

第11楽章 手

しおりを挟む

「んー…先生、配布された資料がよくわかりません」

「それは担当教授に言って」

 ノートヴォルトの壮絶な過去を聞いた日から数日後。
 部屋が綺麗になったのでこれからは週に2~3回でいいと言われ、メイドをする日数は減っていた。
 ピアノを練習したければ貸すと言ってもらえたことには大喜びし、何かとコールディアは彼の家に来ていた。家に行く口実があるのは嬉しかった。
 それほど得意でもなかった料理だが、ちゃんと食事をして欲しくて本屋でレシピ集も買ってしまったのは内緒だが。

(なに乙女みたいなことしてるんだろう)

 本を探しながらそう思ったが、動き出した想いというのは自分が認めていなくてもそう止まることはないのが厄介だ。

 ちなみに本を買うほど財布に余裕ができたのは、そこだけはきちんとしていてくれたノートヴォルトが週払いで彼女の口座に振り込んでおいてくれたから。
 どこで口座を知ったのかと思えば、以前の助手の契約書の控えにあったそうだ。
 そういう所は抜かりないんだなと思うと、もしかしたら元々生活もだらしないわけじゃないのではと思ってしまう。

 振り込まれた金額は、時給に換算すると1500アウリンはあったので想定よりずっと多かった。
 学院で規定された助手の時給は1000なので、それより遥かに多い。後で知ったがレベルの低い日雇いメイドは時給1100アウリン程度。身元も技術もそれなりの日雇いメイドは1400程度だった。プロでもないのに少し申し訳ない気もした。

(なんでそういう所だけきちんとしてるんだろう)

 この日メイドではなくピアノ練習及び魔力係数の課題のヒントを貰いに来ていた彼女は、あまり進まない成果に嫌になり大きく伸びをした。

「ふぁ…なんでこんな当たり前の現象を説明しないといけないの」

「当たり前の事象が当たり前であるのには理由があるからかな」

「魔術師学科の教授は芸術系こっちには意地悪なんですよ。この資料だってわかるようなわからないような。腹立つー」

「昔から変わらないね。あの学院で魔楽部は立場が低いから。学生だけでなく教授の間でもそれはある」

「フリーシャ様が少し言っていたけど、先生もそういうことってされるんですか?」

「なんかしてるみたいだけどどうでもいいかな。学生に関わることなら許さないけど」

「なんかかっこいい」

 恐らく魔法で何か仕掛けられたとしてもそれをまともに相手にしてしまったら相手の方がタダでは済まないのだろう。
 学生間では下らない嫌がらせから怪我をするような大きな騒動まで多様にある。
 教授間ではどうなのだろう。
 陰湿なことをされていなければいいなと思う。

「グラスハープもその関係なのかな」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。アーレイ教授はそういう下らないこととは関わらないから、彼の言うことは信じていいと思うけど」

「もう弾けないのかな…はぁ。課題終わらない。こんなゴミ資料じゃ無理」

 ノートヴォルトが「ちょっと見せて」と言うので渡すと、コールディアの倍以上のスピードで資料がめくられていった。

(なるほど飛び級か。私生活とギャップがありすぎるよ)

「この書き方は不親切だね…教科書と併せて読んでも答えに辿り着くのにかなり労力がいる…魔術師学科ならそれでもやれと思うけど、基礎Ⅰの思考力でやることじゃない」

「やっぱり。昨日フレウティーヌから手紙が来たんですけど、別荘で課題をやろうとしたら難しくて諦めたって。参考書がないと無理って言ってたんで、みんな同じように思ってるのかも」

「自力でやるっていうなら学院の図書館にいい本があるけど」

「多分先生にヒント貰って答えたら“どうしてこの答えに辿り着いたか説明せよ”って言われるんですよ。午後に図書館行こうかな」

「じゃあ僕も行こうかな。テスト用の参考資料を選んでおかないといけない」

「そ、そのテスト内容とは…」

「教えられると思う?」

「厳しい…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話

神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。 つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。 歪んだ愛と実らぬ恋の衝突 ノクターンノベルズにもある ☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

社畜魔法使いは獣人彼氏に甘やかされる

山吹花月
恋愛
仕事の後は獣人彼氏といちゃ甘スキンシップ。 我慢できなくなった獣人彼氏にとろとろに甘やかされる。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】

ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。 ※ムーンライトノベルにも掲載しています。

【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。  でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

処理中です...