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第11楽章 手
しおりを挟む「んー…先生、配布された資料がよくわかりません」
「それは担当教授に言って」
ノートヴォルトの壮絶な過去を聞いた日から数日後。
部屋が綺麗になったのでこれからは週に2~3回でいいと言われ、メイドをする日数は減っていた。
ピアノを練習したければ貸すと言ってもらえたことには大喜びし、何かとコールディアは彼の家に来ていた。家に行く口実があるのは嬉しかった。
それほど得意でもなかった料理だが、ちゃんと食事をして欲しくて本屋でレシピ集も買ってしまったのは内緒だが。
(なに乙女みたいなことしてるんだろう)
本を探しながらそう思ったが、動き出した想いというのは自分が認めていなくてもそう止まることはないのが厄介だ。
ちなみに本を買うほど財布に余裕ができたのは、そこだけはきちんとしていてくれたノートヴォルトが週払いで彼女の口座に振り込んでおいてくれたから。
どこで口座を知ったのかと思えば、以前の助手の契約書の控えにあったそうだ。
そういう所は抜かりないんだなと思うと、もしかしたら元々生活もだらしないわけじゃないのではと思ってしまう。
振り込まれた金額は、時給に換算すると1500アウリンはあったので想定よりずっと多かった。
学院で規定された助手の時給は1000なので、それより遥かに多い。後で知ったがレベルの低い日雇いメイドは時給1100アウリン程度。身元も技術もそれなりの日雇いメイドは1400程度だった。プロでもないのに少し申し訳ない気もした。
(なんでそういう所だけきちんとしてるんだろう)
この日メイドではなくピアノ練習及び魔力係数の課題のヒントを貰いに来ていた彼女は、あまり進まない成果に嫌になり大きく伸びをした。
「ふぁ…なんでこんな当たり前の現象を説明しないといけないの」
「当たり前の事象が当たり前であるのには理由があるからかな」
「魔術師学科の教授は芸術系には意地悪なんですよ。この資料だってわかるようなわからないような。腹立つー」
「昔から変わらないね。あの学院で魔楽部は立場が低いから。学生だけでなく教授の間でもそれはある」
「フリーシャ様が少し言っていたけど、先生もそういうことってされるんですか?」
「なんかしてるみたいだけどどうでもいいかな。学生に関わることなら許さないけど」
「なんかかっこいい」
恐らく魔法で何か仕掛けられたとしてもそれをまともに相手にしてしまったら相手の方がタダでは済まないのだろう。
学生間では下らない嫌がらせから怪我をするような大きな騒動まで多様にある。
教授間ではどうなのだろう。
陰湿なことをされていなければいいなと思う。
「グラスハープもその関係なのかな」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。アーレイ教授はそういう下らないこととは関わらないから、彼の言うことは信じていいと思うけど」
「もう弾けないのかな…はぁ。課題終わらない。こんなゴミ資料じゃ無理」
ノートヴォルトが「ちょっと見せて」と言うので渡すと、コールディアの倍以上のスピードで資料がめくられていった。
(なるほど飛び級か。私生活とギャップがありすぎるよ)
「この書き方は不親切だね…教科書と併せて読んでも答えに辿り着くのにかなり労力がいる…魔術師学科ならそれでもやれと思うけど、基礎Ⅰの思考力でやることじゃない」
「やっぱり。昨日フレウティーヌから手紙が来たんですけど、別荘で課題をやろうとしたら難しくて諦めたって。参考書がないと無理って言ってたんで、みんな同じように思ってるのかも」
「自力でやるっていうなら学院の図書館にいい本があるけど」
「多分先生にヒント貰って答えたら“どうしてこの答えに辿り着いたか説明せよ”って言われるんですよ。午後に図書館行こうかな」
「じゃあ僕も行こうかな。テスト用の参考資料を選んでおかないといけない」
「そ、そのテスト内容とは…」
「教えられると思う?」
「厳しい…」
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