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第10楽章 兵器の子 6

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 しばらくそうしてひくひく泣いていたら、いつの間にか隣りに同じ姿勢でベッドにもたれかかるノートヴォルトがいた。
 顔だけそちらに向けると、彼も同じように見返してきた。
 とても不満そうな顔で。

「約束守れませんでした」

「なんか僕が泣かせたみたいで嫌なんだけど」

「そんなようなもんじゃないですか」

「せっかく話したのにそういうこと言う?」

「辛くないんですか」

「質問はなし」

「じゃあ1回だけ先生のこと、ぎゅーってしていいですか?」

「なんで……ちょっと」

 コールディアそう言うと、許可も無くノートヴォルトの上にのしかかるように抱きしめた。
 とにかく彼を包み込みたくて腕を回して精一杯抱きしめていたつもりだけど、気が付けばベッドを背中に預けたノートヴォルトに逆に抱きしめられていた。

「これは教授と学生の距離感としては大問題だと思うけど」

「いいんです。今は人の心と心の距離なんです」

 なんやかんや言いながらも、ノートヴォルトはしばらくそのままでいてくれた。

「ピクシーハープ、あれは父の物なんだ。連れて行かれる時に持って行けた数少ない僕の宝物。僕はもう弾けない。演奏は必ず魔奏でないといけない。魔力を落とさないためにそう契約させられているから」

「私が弾くのは嫌ですか?」

「…悪くないかな……ほらもうどいて。暑いよ」

 本当はそれほど暑くなかったし、包み込まれる感覚も腕に閉じ込める感覚も悪くなかったのだが、彼はそういうことにしてコールディアを引きはがした。

「先生、お腹すきました」

 2人して立ち上がると、コールディアが涙を拭きながらそう言った。

「なんだよ、泣いたかと思ったら」

「花屋の向こうに新しいカフェができたんです。連れてってください」

「…はぁ。切り替えの早さ」

「私今日庭の雑草頑張ったのでボーナスで!」

「…図々しいメイド」

「行きますよ旦那様」

 彼はコールディアの声がいつもの泣いたあとの低い状態の声ではないことを確認すると、先に行ってしまった彼女を追いかけた。
 異様に早い切り替えが気遣いなことはわかっている。

 呪われているとも言える自分の日常は、実はそんな悪いものでもないと思っていた。
 そう思えるようになったのはいつ頃からだっただろうか。
 少なくとも、彼女の音に耳を傾けてしまうようになった頃ではないかと思う。
 
 だが過去や未来のことを考えればどうしたって暗い話にしかならない。
 だから今この瞬間に目を向けたい。

 少なくともそこには、心安らげると思う存在がいるのだから。
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