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第10楽章 兵器の子 4
しおりを挟む「あかっ!?」
コールディアが隣のノートヴォルトの顔を凄い勢いで見た。
彼が試しに奏でた時、赤だったことをはっきり覚えている。
「アフィお兄様もレニーお兄様も赤よ。私は少し色が落ちてオレンジ。18歳くらいまでは安定しなくて、色味が変わることがよくあるの。貴女みたいにね」
「あの、ところでそのお兄様っていうのは…」
聞いていいものなのか分からないけど、さっきから気になってしかたない。
アフィは教授のフルネーム、アフィナシオ・ノートヴォルトのアフィだとして、レニーとは誰なのか。そもそもフリーシャと呼ばれるこの令嬢も誰なのか。
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「フリーシャ、今度からはもう少し周りを見てから話そう。君はいつも勢いのままに喋りすぎだ」
「ごめんなさい、メイドだとばっかり思っていたから…」
「だとしても話の内容が内容だろう…」
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フリーシャの声が今までひばりがさえずるような響きだったのに、酷く抑揚のないものになる。
「物騒なことを簡単に言うな」
「わ、私殺されるんですか?」
「その消すじゃない、記憶を一部消すってこと」
「よかった…よくないけど!」
ポケットから懐中時計を出して時間を確認したフリーシャは、「あら」と言った。
「ごめんなさい、私そろそろ行かないと。お兄様、もしかしたらまた声がかかるかもしれないわ。魔物の動きが最近は活発なの。時々街にも…学院は魅力的な場所の1つ…気を付けてくださいね」
「わかっているよ」
「えっと、メイドさんじゃなくて…」
「コールディアです」
「コールディア、あなたも気を付けてね。学生さんに言うことじゃないけど、兄をよろしくお願いします」
「いつもお世話してますから!」
そんなこと誰かに言われるまでもない。そう言っているかのように、コールディアは胸を張った。
フリーシャという令嬢はそれに満足したのか、爽やかな笑みを浮かべる。
「あら、だからこんなに綺麗にできたのね。それじゃあ私は行くわ」
玄関まで彼女を見送ると、そこで気配を消す魔法を使い何処かへと行ってしまった。
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「わかってる。…今どこから話すか考えてる」
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「なんの物語だよ…」
「これは先生が私生児なことと関係あるんですか?」
「…あるけど…はぁ、わかった。少し話そうか」
場所をソファに移し、飲みかけのお茶と焼き菓子も移した。
「食べていいよ」
コールディアはサクっと半分に割ると、一口食べてみる。
ピスタチオと焼き菓子の風味が口に広がるが、それほど甘さは感じない。
「これ甘くないですよ」
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「えー。じゃあ食べちゃいます」
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「あと?」
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少し間を置いた後、「わかりました」とようやく答える。
「もういい、と思ったら聞かなくていい。その時は言って」
「わかりました」
彼は1度大きく息を吐くと、覚悟でも決まったかのように流暢に話し始めた。
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