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第10楽章 兵器の子 2

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「あ、すみません。多分もう起きてらっしゃるんじゃないかと…私来てそのまま庭仕事を始めてしまったので」

「まあそうでしたのね。教授のお庭は大変でしょう? ご苦労様」

 彼女はそう言うと玄関のドアノッカーを3回鳴らした。
 少ししても出てこないので、もう1度3回鳴らす。
 それでも出てこない。

「あの、多分開いてます…」

 見かねてそう言えば、令嬢はドアノブに手をかけた。
 傍に立って気づいたが、品のいい香水の香りがした。
 貴族令嬢なら当たりまえなのかもしれないが、それがノートヴォルトにどんな印象を抱かせるのかと一瞬想像し、自分にはない大人の色香に軽く嫉妬した。

「あらほんとだわ。相変わらず不用心ね」

 開いていることがわかると、彼女はさっさと部屋に入ってしまった。
 
「悔しいけどいい匂い…知り合い? 物凄く綺麗な人だけど…え? 恋人はいないって言ったよね?」

 その時、部屋の中から悲鳴が聞こえた。
 何事かと急いで部屋に入れば、今しがた入ったばかりのご令嬢が口を押さえて驚いている。

「どうしました!?」

「これは…これはどういうこと!? お部屋が…人の住処になっているではないですか…私家を間違えてしまったの?」

「恐らく合っています」

 彼女は辺りをキョロキョロしながら、「ついに魔律道具を使ってくれたのね」と呟いている。あの道具を揃えたのがこの女性と言うことだ。

「煩い…」

 今日もお決まりの定位置とでも言うように、ノートヴォルトがピアノの影から顔を上げた。
 またそんな所で寝落ちしてと思っている間に、令嬢がノートヴォルトに駆け寄り抱き着いた。

「だきっ!?」

「まあまたそんな所で寝て。でも少し元気そう? ちゃんと寝てらっしゃる? お食事は? 変わったことはありません? 魔術師学科の嫌がらせはまだあります? そう言えば先日の発表会ではーー」

「煩い。あと苦しい。落ち着いてくれないか」

「落ち着いていられません!」

(私も落ち着かないよ!)

「色々お話ししたいことが沢山あるのよ。あ、メイドさん、こちらお菓子なの。お茶を用意していただけるかしら?」

「は、はい…」

 勢いに押されたコールディアは、汚れたエプロンやタオルを外すと綺麗に手を洗ってお茶の用意を始めた。

(誰。誰なの。物凄く親しいし以前から知っていそうだし先生も普通に話してるし)

 ちらりとテーブルの方を伺えば、「こんな色でしたのね」という声が聞こえる。

(そうよ、私が発掘したばかりよ)

 コールディアがお茶を用意する間も令嬢の絶え間ないお喋りが続いていた。

「何から話そうかしら。あ、まずプールの色ね。最近少し色が変わってきたわ。あまりいい兆候ではないわね…」

「待ってフリーシャ」

「まだオレンジかしら? でも時々不安定なのよ。先週は一度緑まで落ちましたし、お兄様だけでなくお父様もクレド公爵も気にしていたのよ。それから前回の合同訓練で公爵に目を付けられた学生が何人かいて。えーとそれから…」

「だから待ってって言ってる」

 なんだか気になる単語も混ざる話を、ノートヴォルトはどうやら遮りたいらしい。
 しかし令嬢のお喋りは止まらず、お茶を用意したコールディアは2人の目の前に少しばかりイラついた手でお茶を出した。

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