37 / 113
11
第10楽章 兵器の子 2
しおりを挟む「あ、すみません。多分もう起きてらっしゃるんじゃないかと…私来てそのまま庭仕事を始めてしまったので」
「まあそうでしたのね。教授のお庭は大変でしょう? ご苦労様」
彼女はそう言うと玄関のドアノッカーを3回鳴らした。
少ししても出てこないので、もう1度3回鳴らす。
それでも出てこない。
「あの、多分開いてます…」
見かねてそう言えば、令嬢はドアノブに手をかけた。
傍に立って気づいたが、品のいい香水の香りがした。
貴族令嬢なら当たりまえなのかもしれないが、それがノートヴォルトにどんな印象を抱かせるのかと一瞬想像し、自分にはない大人の色香に軽く嫉妬した。
「あらほんとだわ。相変わらず不用心ね」
開いていることがわかると、彼女はさっさと部屋に入ってしまった。
「悔しいけどいい匂い…知り合い? 物凄く綺麗な人だけど…え? 恋人はいないって言ったよね?」
その時、部屋の中から悲鳴が聞こえた。
何事かと急いで部屋に入れば、今しがた入ったばかりのご令嬢が口を押さえて驚いている。
「どうしました!?」
「これは…これはどういうこと!? お部屋が…人の住処になっているではないですか…私家を間違えてしまったの?」
「恐らく合っています」
彼女は辺りをキョロキョロしながら、「ついに魔律道具を使ってくれたのね」と呟いている。あの道具を揃えたのがこの女性と言うことだ。
「煩い…」
今日もお決まりの定位置とでも言うように、ノートヴォルトがピアノの影から顔を上げた。
またそんな所で寝落ちしてと思っている間に、令嬢がノートヴォルトに駆け寄り抱き着いた。
「だきっ!?」
「まあまたそんな所で寝て。でも少し元気そう? ちゃんと寝てらっしゃる? お食事は? 変わったことはありません? 魔術師学科の嫌がらせはまだあります? そう言えば先日の発表会ではーー」
「煩い。あと苦しい。落ち着いてくれないか」
「落ち着いていられません!」
(私も落ち着かないよ!)
「色々お話ししたいことが沢山あるのよ。あ、メイドさん、こちらお菓子なの。お茶を用意していただけるかしら?」
「は、はい…」
勢いに押されたコールディアは、汚れたエプロンやタオルを外すと綺麗に手を洗ってお茶の用意を始めた。
(誰。誰なの。物凄く親しいし以前から知っていそうだし先生も普通に話してるし)
ちらりとテーブルの方を伺えば、「こんな色でしたのね」という声が聞こえる。
(そうよ、私が発掘したばかりよ)
コールディアがお茶を用意する間も令嬢の絶え間ないお喋りが続いていた。
「何から話そうかしら。あ、まずプールの色ね。最近少し色が変わってきたわ。あまりいい兆候ではないわね…」
「待ってフリーシャ」
「まだオレンジかしら? でも時々不安定なのよ。先週は一度緑まで落ちましたし、お兄様だけでなくお父様もクレド公爵も気にしていたのよ。それから前回の合同訓練で公爵に目を付けられた学生が何人かいて。えーとそれから…」
「だから待ってって言ってる」
なんだか気になる単語も混ざる話を、ノートヴォルトはどうやら遮りたいらしい。
しかし令嬢のお喋りは止まらず、お茶を用意したコールディアは2人の目の前に少しばかりイラついた手でお茶を出した。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

一宿一飯の恩義
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
妹のアイミが、一人暮らしの兄の家に泊まりに来た。コンサートで近くを訪れたため、ホテル代わりに利用しようということだった。
兄は条件を付けて、アイミを泊めることにした。
その夜、条件であることを理由に、兄はアイミを抱く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる