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第10楽章 兵器の子
しおりを挟む翌朝、連日お世話になっているカフェで朝食をご馳走してもらうと、コールディアは帰宅した。
「よく眠れた」と言う割に目の下にクマがありそうなノートヴォルトを見て、「やっぱり1日くらいじゃだめかあ」と少しがっかりしていたが。
帰宅後彼女は自分の部屋の掃除と洗濯を済ませると、昨日ノートヴォルトに説明してもらった四大元素の課題を仕上げてしまった。
こういうのは大体休みも後半になって焦るので、早々に終わってしまい解放感に包まれた。まだ残っている課題もあるが。
仕上げた課題をしまい、机に頬杖をつくと「むふふ」と変な笑いを浮かべた。
「先生の寝顔を頂いてしまった」
それだけじゃない。
「一晩過ごしちゃった…」
その後色々思い出し悶えた挙句、許容量を超えてしまいうっかり叫んでしまった。
隣の部屋から“ゴン”と壁を叩かれ、彼女は見えていないのにそちらに向かって謝った。
「はぁ。なにこれ、先生のこと好きみたいじゃない」
ベッドに横たわりぼーっと天井を眺めて数秒、「違うから!」と言って起き上がると、全く頭に入らない教科書とにらめっこをした。
そもそも先生とは10個違う。
大人の10歳違いはそこまで気にならないかもしれないけど、学生との10歳違いはかなり気になる。
そう、私は学生。
先生に恋とかあり得ない。
それに変だし。
音楽馬鹿だし。
だらしないし。
私はどこまでいっても教え子だろうし。
「だめだ、なーんも出来ない。買い物行こう」
結局集中することなど不可能となった彼女は、食材を買うついでに少しお店を眺めて回ろうと、商店街に向かった。
途中で警戒魔法を忘れていることに気づき急いでかけると、ウィンドウショッピングの続きをする。
花屋の前を通りかかった時、ちょうど夏の花が咲き乱れ、ノートヴォルトの家の庭を思い出した。
(あの庭もなんとかしたいよなあ……よし)
雑草が我が物顔で蔓延る庭は、そんなに広くはないが手入れをしてないことが一目瞭然でみっともない。
生活に直接関係ないので後回しにしていたが、室内も片付けたことだし、いよいよ着手の時が来たと思った。
そして除草作戦を展開するために花屋へと乗り込んだ。
翌日、コールディアは昨日花屋で買った園芸道具を持って朝も早い馬車でノートヴォルトの家へと向かった。
実家は農家。
土いじりなら何度も手伝ってきた。
どうせ何か植えたところでノートヴォルトが手入れをするとは思えないので、とにかく無駄に青々としないように雑草対策強化だ。
買ってきた除草薬を撒く前に、まずは適度な長さまで刈る必要がある。
昨日の大雨で多少地面がぬかるんでいるけど、思い立ったが吉日、彼女は長靴で泥の雑草地帯へ乗り込んだ。
「えーと、まず長すぎる草を刈るでしょ、除草薬1を撒いて、燃やす。残ったやつは手で除いて、最後に除草薬2を撒いて…」
せっせと作業に精を出すうちに、昨日の雨が嘘のような太陽が高くなってくる。
額の汗をぬぐいつつ、時々花屋に教えてもらった魔法も使いながら作業を進めた。
「あら、今回は随分若いメイドが来たのね。ねえノートヴォルト教授はご在宅かしら?」
突然背後から声をかけられ、びっくりして振り向く。
まさかあの先生を尋ねて来るような人がいるとは。しかもこんな…
「綺麗…」
目の前に立っていた人物は人目を気にしているのか、目深に被ったフード付きマントの若い女性だった。
コールディアが顔を上げると同時にフードを取り、艶やかな黒髪がさらりと流れた。
侍女は連れていないようだけど、どう見ても貴族のご令嬢。
柔らかな表情のまま、コールディアの返事を待っている。
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