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第8楽章 好きな声音

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 それからどれくらい課題に集中していただろうか。
 教科書と配布された資料を見比べる。

「…つまり魔力の感受性とはこの四大元素をどれだけ感知するかに関わっており……仮に火の元素ばかりに感受性が高くとも成立はせずそのバランスが重要であり……小難しい。発火イグニッション…先生、火を使うには火だけじゃないんですかね」

 指先に灯る火を眺めながら、譜面に書き込むノートヴォルトに問う。
 彼は書き込む手はそのままに答えた。

「高等部でどう習った」

「んーと高等部の授業だと…あれ、そう言えば“4つ均等に使えることが重要で”とか“元素の相関図から外れるな”とかはよく言われたけど“そうするものだから”としか…」

「逆にそうしなかったらどうなると思う?」

「え…弱くなる? でも専門職じゃない限り弱くても生活できるしな…」

「四大元素の他にもう1つ重要な要素は?」

 コールディアの脳内で、高等部までの教科書が必死にめくられる。

「正と負ですか?」

「元素に属性をもたらす正と負は、相関図ではどうかかれる?」

 コールディアが今度は相関図を思い浮かべる。

 上に火、下に水。そして左右に土と風が来る。
 属性をもたらす正と負は、それぞれ火の上に負、水の下に正。
 この属性は、ざっくり言って人を殺傷する力だ。
 水は正の影響を強く受け、火は負の影響を強く受ける。土と風は半々。
 火に正の属性を与えるには…

「あ、例えば火に正の力を与えたかったら水を経由しなければならないとかですか?」

「そう。そんなこと頭で考えて使うやつはいないけどね」

「えーとじゃあ火しか感知できなかったら負の属性しか持てない。持てないから…使えない…この使えないって、火に正の属性を持たせられないって意味ではないんですか?」

「魔力があってもそれでは現代魔術は使えない。多少バランスは欠いていても、全てを感知できなければ発現しない…古典魔術じゃなければね。現代魔術は低魔力でも使えたり使い方が簡単にできている。その代わり四大元素の感知は必須になってくる」

 当たり前のように語っているが、この教授は音楽家だ。
 それとも自分も卒業するころにはこの理論を当たり前に理解しているのだろうか。

「先生、その知識は学院生なら誰でも答えられるようになりますか」

「魔術師学科ならそうじゃないと困る」

「え、じゃあ今の回答って私に必要です?」

「本当にそのまま書いたら魔術師学科に連れて行かれるよ。あそこは常に優秀な魔術師候補を探しているからね」

「ええっ! じゃあどの程度で書いたら正解なんですか?」

「基礎Ⅰで求められる知識はほとんど高等部と変わらない。なぜ使えないのかまで踏み込む必要はない。高等部までの各学校のレベルの違いを均すための平均的な知識だから」

 コールディアが楽譜に目を落とすノートヴォルトをテーブルから眺める。
 ただの音楽狂と思っていたけど、どうやらそうではないらしい。
 普通ならわざわざ学ぶことのない古典魔術も使っていたし、音楽部も卒業していないと言っていた。
 では一体何を学び、なんで音楽教授として在籍しているのだろうか。

 柳みたいに枝垂れた髪の横顔からは、何もわからなかった。

 ノートに、高等部の教科書から少しだけ発展させたメモを書きこむ。
 家に帰ったらレポートの下書きをしよう。
 ついでに、書き込んだメモの隣に“先生の謎知識”と書いた。
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