27 / 113
8
第7楽章 好きな音色 2
しおりを挟む
魔術基礎Ⅰは学部に限らず魔術学院の1年生全員の必修科目だ。
魔法を使う上で密接に関わる四大元素への理解を深め、使う魔法の威力を最大限に引き出すためにうんたらかんたら。
彼女は王立に編入しただけあって決して頭が悪いわけではないが、専門に進む学生は多かれ少なかれ専門外の科目を軽視する傾向にある。
彼女も正直実技だけしていたいので魔術学部だけでやればいいのに、と思ってしまう。
もう1つ、魔力係数に関しても「魔法使おうとして使えていればいいじゃない」と思うので、そこに関わる魔力と威力の関係性について述べよと言われても「どうでもいい」という感想だった。
とは言え、そんなレポートを出すわけにはいかない。
授業は聞いていたし与えられた資料も読み込んだので、理解していないわけではないのだ。
「あれ? 先生チェンバロやらないんですか?」
しばらく資料を読んでいたら、食前まで弾いていたチェンバロを弾いていないことに気づいた。作曲の途中だったはずなのだが。
「邪魔になるかなって」
「先生って人に気を遣うんですね!」
「…君僕を馬鹿にしてる?」
彼女は半分笑いながら「すみません」と言うと、「構わないですよ」と続けた。
「先生の音は好きなんで大丈夫です。作業用テーブルミュージック…贅沢すぎる。わからなかったら質問していいですか」
「いいけど…僕の音好きなんだ」
「はい。すごく正確で、ど真ん中に当たってる感じ、先生らしいですよね。ちょっとだけ音が物憂げな雰囲気なのも切ない感じがして好きです。先生の曲も暗い物が多いけど、あの地の底に落とされて這い上がれそうにない絶望感、なかなか他では味わえないと思います」
「後半が褒めているのかよくわからないんだけど」
「つまり好きです、先生の音も演奏も曲も」
「…そう」
熱弁をしたあとで、結構恥ずかしいことを言った気がしてきた。
急いで資料に目を落とすも、どこまで読んだかもわからない。
「…褒められた方が照れるのはわかるけど、なぜ君が照れるの」
「そういう所は気づかないでいいんですよ」
「でも2.8声が高くなっている。なるほど、これは君が照れている時のピッチなのか」
「妙なところで理解を深めないでください……先生は全然平気そうなのがなんか腹立つ」
チェンバロの音色が、綺麗な分散和音を奏で始める。
「照れはしないが、嬉しくは思っている」
コールディアは資料から目を上げないまま、喜んでもらえたことが嬉しくて小さく微笑んだ。
魔法を使う上で密接に関わる四大元素への理解を深め、使う魔法の威力を最大限に引き出すためにうんたらかんたら。
彼女は王立に編入しただけあって決して頭が悪いわけではないが、専門に進む学生は多かれ少なかれ専門外の科目を軽視する傾向にある。
彼女も正直実技だけしていたいので魔術学部だけでやればいいのに、と思ってしまう。
もう1つ、魔力係数に関しても「魔法使おうとして使えていればいいじゃない」と思うので、そこに関わる魔力と威力の関係性について述べよと言われても「どうでもいい」という感想だった。
とは言え、そんなレポートを出すわけにはいかない。
授業は聞いていたし与えられた資料も読み込んだので、理解していないわけではないのだ。
「あれ? 先生チェンバロやらないんですか?」
しばらく資料を読んでいたら、食前まで弾いていたチェンバロを弾いていないことに気づいた。作曲の途中だったはずなのだが。
「邪魔になるかなって」
「先生って人に気を遣うんですね!」
「…君僕を馬鹿にしてる?」
彼女は半分笑いながら「すみません」と言うと、「構わないですよ」と続けた。
「先生の音は好きなんで大丈夫です。作業用テーブルミュージック…贅沢すぎる。わからなかったら質問していいですか」
「いいけど…僕の音好きなんだ」
「はい。すごく正確で、ど真ん中に当たってる感じ、先生らしいですよね。ちょっとだけ音が物憂げな雰囲気なのも切ない感じがして好きです。先生の曲も暗い物が多いけど、あの地の底に落とされて這い上がれそうにない絶望感、なかなか他では味わえないと思います」
「後半が褒めているのかよくわからないんだけど」
「つまり好きです、先生の音も演奏も曲も」
「…そう」
熱弁をしたあとで、結構恥ずかしいことを言った気がしてきた。
急いで資料に目を落とすも、どこまで読んだかもわからない。
「…褒められた方が照れるのはわかるけど、なぜ君が照れるの」
「そういう所は気づかないでいいんですよ」
「でも2.8声が高くなっている。なるほど、これは君が照れている時のピッチなのか」
「妙なところで理解を深めないでください……先生は全然平気そうなのがなんか腹立つ」
チェンバロの音色が、綺麗な分散和音を奏で始める。
「照れはしないが、嬉しくは思っている」
コールディアは資料から目を上げないまま、喜んでもらえたことが嬉しくて小さく微笑んだ。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】
ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。
「……っ!!?」
気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話
神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。
つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。
歪んだ愛と実らぬ恋の衝突
ノクターンノベルズにもある
☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。
でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる