学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

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第7楽章 好きな音色 2

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 魔術基礎Ⅰは学部に限らず魔術学院の1年生全員の必修科目だ。
 魔法を使う上で密接に関わる四大元素への理解を深め、使う魔法の威力を最大限に引き出すためにうんたらかんたら。

 彼女は王立に編入しただけあって決して頭が悪いわけではないが、専門に進む学生は多かれ少なかれ専門外の科目を軽視する傾向にある。
 彼女も正直実技だけしていたいので魔術学部だけでやればいいのに、と思ってしまう。

 もう1つ、魔力係数に関しても「魔法使おうとして使えていればいいじゃない」と思うので、そこに関わる魔力と威力の関係性について述べよと言われても「どうでもいい」という感想だった。

 とは言え、そんなレポートを出すわけにはいかない。
 授業は聞いていたし与えられた資料も読み込んだので、理解していないわけではないのだ。

「あれ? 先生チェンバロやらないんですか?」

 しばらく資料を読んでいたら、食前まで弾いていたチェンバロを弾いていないことに気づいた。作曲の途中だったはずなのだが。

「邪魔になるかなって」

「先生って人に気を遣うんですね!」

「…君僕を馬鹿にしてる?」

 彼女は半分笑いながら「すみません」と言うと、「構わないですよ」と続けた。

「先生の音は好きなんで大丈夫です。作業用テーブルミュージック…贅沢すぎる。わからなかったら質問していいですか」

「いいけど…僕の音好きなんだ」

「はい。すごく正確で、ど真ん中に当たってる感じ、先生らしいですよね。ちょっとだけ音が物憂げな雰囲気なのも切ない感じがして好きです。先生の曲も暗い物が多いけど、あの地の底に落とされて這い上がれそうにない絶望感、なかなか他では味わえないと思います」

「後半が褒めているのかよくわからないんだけど」

「つまり好きです、先生の音も演奏も曲も」

「…そう」

 熱弁をしたあとで、結構恥ずかしいことを言った気がしてきた。
 急いで資料に目を落とすも、どこまで読んだかもわからない。

「…褒められた方が照れるのはわかるけど、なぜ君が照れるの」

「そういう所は気づかないでいいんですよ」

「でも2.8声が高くなっている。なるほど、これは君が照れている時のピッチなのか」

「妙なところで理解を深めないでください……先生は全然平気そうなのがなんか腹立つ」

 チェンバロの音色が、綺麗な分散和音アルペジオを奏で始める。

「照れはしないが、嬉しくは思っている」

 コールディアは資料から目を上げないまま、喜んでもらえたことが嬉しくて小さく微笑んだ。
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